2020年10月08日

人類は変な時計を求めている?

先日製作した機械式?デジタル時計。オフィスに置いていたら、来客者が興味を持ってくれ話題の種になります。そして、動画やデータを YouTube や Thingiverse に載せてみたのですが、これがアクセスが多い。これまでの充電器やカメラなどに比べて遥かに伸びがよく、止まる感じもありません。人類は変な時計を求めてるのかあ、確かに個性的なものじゃなきゃ置く意味ないもんな、・・・と思って、またそのうちなんか作ろうと思って調べてみると、いろいろ出てきました。


多く見つかるのはよくある2〜3針式のアナログ時計で、文字盤や針の形に工夫が凝らされたもの。しかしメカニズム的には普通の時計なのでそれらを除外すると、次に3Dプリンタでよく作られているのは Numechron と呼ばれるタイプの回転ドラム式の時計です。もともと戦前にこのタイプの時計があったようで、3Dプリンタで作られているのもほぼ同じ構造・形状になっているようです.確かに合理的で無駄がないのですが、ドラムの大きさがまちまちなのがちょっと気になります。


他によく作られている変わり種時計は、ボールがゴロゴロと転がるタイプ。これも定番的設計があるようで、桁の構成が似たものが多く見られますが、いわゆる Marble roller coaster (ビー玉ジェットコースター)に人気があるように、ボールが転がる系のガジェットは見ていて飽きない良さがあります。しかし時間が見づらいのが玉に瑕かもしれません。


そしてもう1つ、人気がありそうなのは機械式の7セグメント表示式の時計です。陸上競技などでも屋外用の大型の棋界式セグメントディスプレイが見られたように、市販の部品も各種あったようですが、3Dプリンタでの制作例も割と見られます。その中で最も完成度が高いと思ったのが上の動画。7つのセグメントを動かすメカがモジュール化されていて、うまく1つの動力を分配してカムで各セグメントのON/OFFを切り替えています。1セグメントごとに1つずつサーボモーターを用いたものも見られますが、コストもかかるし、合理性に欠ける感じがします。やはり7セグメントタイプであれば、10進数からセグメントのON/OFFを行う部分はメカでやってほしいところ。


他に面白いと思ったのがこちらの時計です。7つのセグメントのON/OFFをサーボ3〜4個で実現する方法が述べられており、その手があったか、と感心する設計。もとは、もっと多数のムーブメントを用いたプロの作品と思しき時計が発想の元のようですが、個人的には美しい動きもよいですが合理性の方に惹かれます。強いて言えばセグメントのON/OFFが電子制御であるところで、これがメカ式ならもっと面白かったかなと思います。

そんなことでいくつかアイディアが湧いてきました。そのうち2号機が誕生しそうです。

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2020年10月05日

機械式デジタル時計作りました

また突然ですが、機械式のデジタル時計を作りました。機械式と言っても動力や計時はゼンマイやテンプのような機械式ではないのですが、各桁の表示は電子式ではありません。自分の好みとして、デジタルは便利なものの光っている時計はあまり好きではなく、液晶も視認性が今ひとつ。また24時間表示がいいということもありますが、それよりもまあ、せっかく時計を置くのなら世界に1個しかない変なのがいいな、というのが大きいです。

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早速ですが中身はこんな構造になっています。4桁ありますが、中央の円筒(選択カム)でレバーを上下させることで、どれか1つの桁を選んで回転させるようになっています。またすべての桁は0〜9の10文字ありますので,23:59 から日付が変わって 00:00 になるときなどは21回も文字盤を進める動作があり、別途、桁を選ぶ動作も途中に入るので数十秒を要します。また音も大きいですが、区切りの時間がわかりやすく、時報代わりといったところかもしれません。サーボモーターは1つだけで、基準位置から右回転で桁選択の変更、左回転で選択した桁を1進める動作ができる構造になっています。制御は micro:bit で行っており、どんな場合でも最小の手順で桁を動かすようになっているほか、bluetooth でPCから時刻設定ができる機能もつけました。



構造の説明や動作の様子は例によって YouTube の動画で見てみてください。今回のものは部品点数もかなり多く、パーツは27種類、75個にもなります(はめ込む白い文字パーツだけで40個ありますが)。また動作も結構シビアで、3Dプリンタの細かな精度の問題で部品が引っかかって桁が進まなかったりしました。そういう部分の追加工や微調整はけっこうありますが、例によってほとんどのパーツは3Dプリンタでできており、他に必要なのは制御用の電子回路部分の他には250円ほどで買えるサーボ1個と針金ぐらいです。

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文字盤を少し上向きにしたり、ほぼツライチで表示されるようにしたこともあり、視認性も良好。大きさも、高さは文字の大きさで決まってしまい小さくするのは不可能ですし、幅も小さく、文字間隔もかなり詰められていると思います。かなり音が大きいのは確かですが、時間がないときの来客時にはいいかもしれません笑

形状データやプログラムは,Thingiverseこちらでダウンロード可能です。
posted by しんさく at 18:55| Comment(0) | TrackBack(0) | 電子モノ

2020年09月13日

全天球パノラマカメラを作りました

最近すっかりはまっている、3Dプリンタでのあれこれ制作。とうとうカメラを作りました。しかもただのカメラではありません。360°、前後左右がすべて写るだけでなく、真上・真下も写る全天球パノラマカメラです。

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世の中、パノラマカメラと呼ばれるものにはいろいろあり、単に画面の上下を切るだけのニセパノラマカメラもあれば、超広角レンズを用いた横長画面のカメラもあります。しかし本格的なパノラマカメラというとやはり、投影方式が普通のカメラとは異なり(円筒座標系)、直線が必ずしも直線として写らないものになるでしょう。WideluxHorizonNoblex のようにレンズだけが首を振るものも面白いですが、なにより究極のアイテムはSeitz社のRoundshotシリーズのように、カメラ全体がぐるっと回って360°まったく死角のないカメラということになります。

RoundShot にもたくさんの種類があり、フィルム送りの方法にも何通りかありますが、今回、簡単に制作するために過去には(おそらく)用いられていない新方式としました。それは、回転するドラムの内部にフィルムのスプールを格納し、フィルムとドラムは撮影中は一体になったまま、相対的にはまったく動かないというものです。そんな方法でできるのかというと、カメラの首を振る方向に適切な速度でドラムを回せば、スリット像の動きに追従することができるので、1組のギアだけで回転を制御できるのです。詳しい仕組みは後の動画を見てみてください。レンズはニコンの対角魚眼ですが、これを斜めに(対角線方向が鉛直方向になるように)取り付けることで真上から真下までが写るようになっています。

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3Dプリンタでこれまでいろいろ作ってきたので設計には慣れてきましたが、今回ばかりはいろいろな心配がありました。特に心配だったのは漏光の問題。黒い素材を使いますが、それでいろいろなものを作ってみたところ、素材そのものが意外と透けます。特に底面・天面は厚みをかなり持たせないと透けるため、遮光性が要求される部分はそれぞれ5層で造形しました。また、回転するドラムがどうしても一部むき出しになるので、摺動しながらも遮光する部分が必要になります。3Dプリンタは精度が低いので、どうしても0.5mm前後の余裕を設ける必要があります。ですので合わせ目をピッタリにすることはできません。そこで複雑な凹凸を持つ、いわば「ラビリンスシール」構造にすることで、モルト(スポンジ)等を一切用いずに遮光性をもたせることにしました。つまり、合わせ目の隙間に多くの交差点を設け、光が壁に当たる回数を増やすわけです。上の断面図でわかりますが、特に上のキャップとドラムの間や、巻き上げノブの周辺などは念入りに遮光を施しています。

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さて、組み立てができたら試写です。今回はさすがにかなり心配でした。遮光が不十分で、屋外で撮ったらフィルムが真っ黒とかだったら、という心配がありました。また構造上、フィルム送りが非常に重く、きちんと最後まで撮りきれるかどうかも心配でした。結果・・・なんと、漏光の形跡は皆無。周辺部がまったくクリアなフィルムが得られました。まずは大成功です。写真には縦の縞があり、これは手動でカメラを回転させる場合には避けられない回転速度のムラによるもので織り込み済みです。レンズの焦点距離(16mm)に対してドラムの半径(35mm)が大きいため、360°を超えて2周弱まで撮影できます。シャッターを搭載していないので、撮影直前にキャップを外し、ぐるぐる回った後にはすぐにキャップを締めるという方法ですが、回転角度に余裕があるため問題にはなりません。想像以上にうまくいきました。

全天球パノラマ画像ですので、左右を360°で切り出すことで、スキャンした画像がそのままパソコンで全天球表示できます。例えば、ウェブサイトPortable Panorama Playerに写真を放り込めば全天球表示ができます。今回撮影した写真を以下にあげておきます。

ファーストライト(室内撮影)(F4)

近所の神社1(F22)

近所の神社2(F22)

近所の神社3(F22)


漏光が心配のため、最初は屋内でまず撮影しました。ボディのピント調整が不完全な上、レンズのフォーカスリングも繰り出し状態になってしまっていてボケていますが、天井のシーリングライトの丸い形もきっちり出ているなどちゃんと全天球画像が撮れています。シャッター速度が変えられないため(遅く回れば実質的なシャッター速度が下がりますが)、屋外撮影では絞りを絞り込んでいます。F22で適正かどうか不安でしたが計算は悪くなかったようで、いい具合に撮影できました。足元の三脚の下に置いたアルミケースまでうまく写っています。



例によって動画も制作しました。原理の図示や、組み立ての様子も写っているのでぜひ見てみてください。今回、できるだけ「3Dプリンタ率」を上げることも目標にしたので、他に用意した部品はレンズマウントに使用した接写リング(Nikon PK-13)、ベアリング3個とネジぐらいです。動画では厚手の敷居すべりをドラムに貼り付けていますが少し厚すぎたので、撮影時にはクラフトテープに変えています。なんとスリットまで3Dプリンタ製ですが、これは薄手の金属板などでもう少し細くしてもいいかもしれません。

今回のカメラは3Dプリンタでの初トライということで、まずはシンプルで確実に撮影できることを目指しました。ですのでいくつか、以下のような問題が残っています。どうせならもうちょっと詰めて、ちゃんと撮影に耐えるカメラを作ってみようかと思っているところです。


  • フィルム巻き上げが大変に重い。ドラムに巻きつけたフィルムが巻き上げ時に締まるためと思われます。ですのでノブを送り出し側にも取り付け、緩めながら巻き上げられるようにしていますが、それでも非常に硬いです。スプール付近にはローラーを設けるなどの工夫が必要そうです。
  • フィルム装填がかなり難しい。ドラムは底のギアと固定されているため抜き取れず、隙間からフィルムを押し込む感じです。レールとの間に隙間があるので(フィルムはローラーに巻き付くので浮きにくく、レールはそもそも不要)バルナックライカほど引っかかる感じはありませんが、ちょっとやりにくいです。
  • フィルム送りは赤窓式で、645判の数字を読み取りますが、これが見づらいです。屈曲部に鏡を貼り付けられるようになっていて、それを貼り付ければ見やすくなるとは思います。
  • カメラの回転軸にはベアリングを設けていますが、3Dプリンタの精度を見込んで余裕がありガタツキがあります。像の縦揺れを防ぐために、軸の固定を強化する必要があります。回転軸の長さをとるためにやむなく回転軸を横にずらしていますが、これも光軸上に設置したいところです。
  • 回転ムラ。手動ではなかなかムラをなくすことは難しいので、自動化する必要があります。モーターを使う手もあるのですが、せっかく "unplugged" つまり電動要素を入れていないので、機械式にしたいところ。オルゴールのメカを流用することを計画しています。


そんなことで、もちろん課題がありますが、とにかく3Dプリンタでカメラが作れたのはよい経験になりました。レンズシャッターとフィルムバックの間をつなぐような、単純な暗箱ならもっと楽に作れそうに思えますが、まずはこのパノラマカメラの実用性を高めてみたいと思います。
posted by しんさく at 23:45| Comment(0) | TrackBack(0) | カメラ