2015年11月15日

ミラーレスカメラ+広角レンズの画質改善 その2

前にこちらで,レンズの前に度の弱い凸レンズをつけることでミラーレスカメラに古い広角レンズを装着したときの周辺画質を改善できることを紹介しました.この方法では周辺部の画質が甘くなる現象を改善出来ますが,周辺部分の光量が低下したり,不自然に色づいてしまったりすることは防げません.しかしこのような問題は事後処理で解決することが出来ます.

cornerfix.jpg


カメラ内にアプリ等を登録して補正する方法もあるようですが,個人的に良いと思ったのは CornerFix というソフトを使う方法です.このソフトでは RAW で撮影した画像を読み込んで補正することができ,上の写真のように周辺部の色ずれだけを補正するのか,それとも色ずれと光量低下の両方を補正するのかなどを選んだり,補正の強度を調整することも出来ます.

この補正のためにはレンズやカメラごとの設定ファイル(プロファイル)を作成する必要があります.この補正にはプロファイル画像が必要で,これは本来真っ白であるべき被写体を撮影し,その色ずれを取り込むことで補正の基準を決めるためのものです.プロファイル画像は,乳白色板をカメラの直前に置き,その背後に光源を置いて撮影するような方法で撮影することが出来ます.

dng-conv.jpg


CornerFix はRAW画像として,アドビが提唱する DNG という形式のみを受け付けます.そのため,各社のミラーレス一眼カメラが出力するRAW画像を,例えば上の写真のような Adobe DNG Converter で変換する必要があります.つまり,各社の RAW 画像を DNG に変換し,その後その DNG を補正してから現像を行うわけですが,Adobe DNG Converter も CornerFix もフォルダ内のファイルを一括処理出来るので,ファイル数が多くてもどうということはありません(レンズを取り違えないようにする必要はありますが・・).

cornerfix.jpg


上の写真はこの手法で補正した写真と補正前の画像とを比較したものです.現像パラメータは同一です.RAW から補正できるので,画質の低下を最低限に抑えることが出来ます.この写真は NEX-5R に Carl Zeiss Biogon 21mm F4.5 を装着したときの例で,今回はニコンが以前に販売していたクローズアップレンズを装着して撮影しました.

DSC_0886.jpg


このクローズアップレンズ No.0 は度数が 0.7ディオプター,つまり焦点距離が約1400mmのものです.以前の計算では必要とする焦点距離よりも度数が高いレンズなので過剰補正になるかと思っていましたが,入手してみると平凸レンズではなくメニスカス凸レンズ(カメラ側が凹面,物体側が凸面になっていて,全体として凸レンズとなっているもの)だったため,補正の度合いはちょうどぐらいでした.

compare.jpg
上:装着時 下:未装着


上の写真は周辺部分の画像を切り出したところですが,一目瞭然,かなりクリアになっています.特にNEX-5R のようなAPS判の範囲内は端の方まで十分な画質になっており,α7 のようなフルサイズでも甘さは残りますが改善の度合いは大きいです.レンズを中心とする方向に全体が湾曲しているため,平凸レンズよりもメニスカス凸レンズのほうが収差の発生力が小さく,その結果,ちょうど良い塩梅になったようです.なお,このクローズアップレンズには上の写真のような .c 付きのものとそうでないものがあり,.c 付きのものは両面マルチコートになっています.

クローズアップレンズをつけると遠方の被写体にピントが合わなくなるので,レンズとボディを繋ぐために用いるマウントアダプター(ニコンSマウントからライカMマウントへ変換するマウントアダプター)の全長を短縮してあります.

DSC_0873.jpg


このマウントアダプターはニコン・コンタックスレンズの外爪だけに対応しているシンプルなものですが,前半部と後半部がネジで止められているため,その間の部分を削って薄くすることが出来ます.ノギスで各部の厚みを測りながらグラインダーで削り,最後に砥石で仕上げました.0.3mm ほど薄くしましたが,MマウントからソニーEマウントの間の変換にはヘリコイド付きアダプターを使っていますので,短縮したことによって最短撮影距離が長くなることは全く問題になりません.

他にも市販品として,ケンコークローズアップレンズ No.05 が売られています.これもメニスかつ凸レンズで, 0.5ディオプター(焦点距離 2000mm)ですので,補正の効果があります(ブロニカ 200mmF4 専用のクローズアップレンズとほぼ同等の効果があります).ただしフィルタ径が 72mm のものしかなく,ステップップリングを経由して取り付けると少し大げさになりますが,しかしこのような度の弱いクローズアップレンズは望遠レンズ用にしか需要がなく(例えば Nikkor ED 180mm F2.8 などには好適),しかたがないところかもしれません.

最後に Carl Zeiss Biogon 21m F4.5 にニコンのクローズアップレンズ No.0 をつけたときの補正の効果を示す比較結果の原画像をアップロードしておきます.いずれも絞り開放で,周辺部の色付きのみ補正してあります.

NEX-5Rでの比較結果(左:補正前,右:補正後)
DSC00539_CF.jpg DSC00538_CF.jpg


α7 での比較結果(左:補正前,右:補正後)
DSC02695_CF.jpg DSC02694_CF.jpg

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2015年11月10日

前玉繰り出し式の収差変動

1950年前後に流行したスプリングカメラや二眼レフカメラのうち,廉価なカメラではピント合わせのためにレンズ全体を前後させる代わりに,「前玉回転式」や「前玉繰り出し式」といい,第1レンズ(いわゆる前玉)だけを前後させる形式のものがありました.この方式ではレンズシャッター機構が前後しないため,繰り出しのためのヘリコイドが小さくてよく,シャッターとボディとの連動などの面でも有利なものですが,反面,近接時の収差変動が大きいと言われています.それではどの程度の影響があるのでしょうか.最近マイブーム化している光学設計ソフトウェアで評価してみました.

inf1.jpg


レンズ設計のベースとして,光学設計ソフトウェア OSLO EDU に付属している 50mm F4 ,画角40度のトリプレットレンズを用いました.これに対し,画面全体の画質が平均的に良くなるように光学設計ソフトウェアが自動計算することにより仮想的なピント合わせを行います.そのため,上の図では像面の状態(ASTIGMATISM の図:中央上)が原点で一致していませんが,トリプレットレンズは収差が大きいため,周辺部の画質を考慮するとほどほどの位置に像面を置くことになります.

inf.jpg

inf3.jpg


まずは無限遠にピントを合わせたときの様子です.TICKNESS(厚み:この場合は空気間隔)の欄の最下行で V とある 42.927621 という値が自動計算により求められたピント位置で,レンズ最後面から像面までの距離に対応します.MTF は可もなく不可もなくといったところでしょうか.トリプレットらしく実用レベルはマークしているといえます.

次に,このレンズ全体を繰り出すことで距離 1000mm の物体に対してピント合わせを行います.

全群繰り出し.jpg

全群繰り出し3.jpg


最上段の白黒反転したところの値(1.0000e+03)が物体をレンズから 1000mm(1メートル)の位置に置いたことを表しており,それにピントが合うようレンズと像面の間隔が 45.615076mm へと,約 2.7mm ほど繰り出されています.この時の MTF は若干低下していますが,収差の状況には大きな違いはないようです.

次に前玉繰り出しです.レンズ全体を元の位置に戻し,ピントが合うように第1レンズと第2レンズの間隔を自動調整するのですが,そうすると性能が下がりすぎてしまったので,以下のような手順で行いました.まず,物体を 2000mm (2メートル)に置き,それに対してレンズ全体の繰り出し量を計算します.次に物体までの距離を 1000mm に設定し直し,今度は第1レンズと第2レンズの間隔を調整します.要するに,2m を基準としてレンズ全体を配置し,それに対して前玉繰り出しにより無限遠から 1m までの範囲をピント合わせするという内容です.このときの計算結果は以下のようになります.

前玉繰り出し.jpg

前玉繰り出し3.jpg


設計データでは,2m の物体にピントが合うレンズと像面の間隔は 44.267481mm となっており,このとき 1m の物体にピントをあわせるために前玉と第2レンズの間隔が 6mm から 6.3859mm に伸びています.このように僅かな移動でピント合わせが可能なことが前玉繰り出し式のメリットの1つです.しかし MTF から分かるように,全体のコントラストが低下してしまっています.コントラスト低下の要因として,前玉繰り出し式では像面の湾曲が大きくなっていること,また球面収差も補正不足の方向に変化しているようです.

さらに近接しようとすると,さらなる像の悪化が生じます.前玉回転式では最短撮影距離が程々の値になっているのもやむなしといったところでしょう.

例によって最後に,各設計における収差図やスポットダイヤグラムを掲載しておきます.
無限遠合焦時
全群繰り出し
前玉繰り出し
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2015年11月09日

ミラーレスカメラ+広角レンズの画質改善

前にこちらの記事で,ミラーレスカメラに古い広角レンズを装着したときの問題を取り上げました.ミラーレス一眼カメラではセンサの前に赤外線カットフィルタや光学ローパスフィルタなどのガラス板状のものが取り付けられており,これが光が斜めに入射する画面の周辺部で収差を発生させ,画質を低下させるというものでした.

自分自身,計算の結果,その影響が思いのほか大きいことを再認識し,これはぜひともなんとかしたいと思っていました.1つの方法は赤外線カットフィルタや光学ローパスフィルタを撤去することで,これは天体写真を撮影される方がよくやられており,やってくれる業者もあります.しかし色再現に難点が出たり,カメラの保証がなくなったりするリスクもあり,今ひとつ手が出ませんでした.そうじゃなく,なんとか光学的に補正できないものか・・と.

compensator.jpg


で,せっかく光学設計ソフトウェア OSLO でシミュレーションしたのだから,ついでに今度は,レンズの前にどんな補正系を置けばこの収差が補正できるのか試してみました.というのはそもそも,このガラス板が発生させる収差が凹レンズの収差によく似ており,どこかに凸レンズを入れると補正できるのではないかという直感があったのです.その結果たどり着いたのが,上の図の赤枠で囲んであるところに相当する,ごく度の弱い凸レンズでした.

diagram-compensated.jpg


上の図では理想レンズ(例によって 21mm F4 を想定)の前に,一方の曲率が 1000mm,もう一方が平面の平凸レンズを配置しています.ガラスはやはり BK7 です.この構成では,補正レンズの焦点距離は約 2000mm となります.このときの収差補正の状況を,補正前と比較したのが以下の図です.

comp1.jpg


この図で左は補正前,右は補正後です.まず見て欲しいのは中央上の ASTIGMATISM(非点収差)の図ですが,この設定で中間画角までは収差がほぼ完全に補正されます.端の方は過剰補正となっているので,フルサイズを前提にするならもう少し度の弱いレンズにした方がいいのですが,今回は APS 判を前提として,中間画角までの補正を優先しました.またそのすぐ右の球面収差図では,少し球面収差の量が増えていますが(横軸のスケールが違います),色収差がほぼ完璧に打ち消されていることが分かります(右上の軸上色収差図でも,色収差が 1/100 ほどになっていることが分かります).ほかにも歪曲収差や倍率色収差(中央下)も小さくなっており,ほぼすべての収差が小さくなっていることが分かります.これは期待できます.では点像はどのようになっているでしょうか.

comp2.jpg


この図でも,補正後(右)はスケールが倍になっている点に注意して下さい.APS判の隅が中段に相当しますが,点像の広がりは 1/5 程度になっていることが分かります.中央の像には悪影響を与えていません.さすがに単レンズでは画角90度のレンズの端まで補正するのは難しそうです.では最後に MTF です.

comp3.jpg


一目瞭然で,やはりAPS判の範囲まではほぼ完全に補正できています.元のレンズの収差を考慮すると,十二分な効果だといえそうです.

これはよさそうだ!ということで,早速試してみることにしました.ちょうど,ケンコーが焦点距離 2000mm のクローズアップレンズ(NO.05)を出しており,これがよさそうです(ただしフィルタ径72mmのものしかありません).とりあえずこれは注文しておいて,まずは手元にある以下のレンズで試してみました.

DSC_0818.jpg


このクローズアップレンズは,ブロニカ用のニッコール 200mm F4 に付属していたものです.ブロニカはそのシステム上,200mmレンズでは最短撮影距離が3.3m程度になってしまうので,このクローズアップレンズを使うことで1.8m 程度までの近接撮影が出来るようになっていました.仕様的に 3.5m (3500mm)ぐらいのレンズのようですので,補正不足ですが,まずは試してみましょう.Carl Zeiss Biogon 21mm F4.5 の後玉のガードを外し,NEX-5R に装着します.そしてその前に(適切なステップアップリングがなかったので)このレンズをかざして撮影.少しピントの調整も必要になります.

wo-compensator.jpg w-compensator.jpg
左:補正前,右:補正後


comp-closeup.jpg


撮影結果から隅のほうを切り出した写真を見ると一目瞭然ですが,周辺部のハロ,甘さがぐっと改善しています.当然かも知れませんが効果てきめん,理論通りの結果で嬉しくなります.また改めて,名レンズ Biogon の本来の性能の高さを思い知ることになりました.

画角 70度近辺までなら効果がありそうなので,続いてフルサイズセンサを備えたミラーレス一眼の Sony α7に 28mm レンズ(W-Nikkor 28mm F3.5 銀鏡筒 3xx番台)を装着してテストしました.

28mm-wo.jpg 28mm-w.jpg
左:補正前,右:補正後


comp2-closeup.jpg


やはり周辺部の流れが補正され,まとまった画質になっています.やや補正不足のようですが,周辺画質にはレンズそのものの収差も大きく影響するので,フルサイズ・等倍・開放絞りの周辺画質としては上々だと思います.

レンズの前に凸レンズをつけたことになるので,無限遠にはピントが合わなくなります.ただし本体のレンズに比べると極めて度が弱いレンズなので,マウントアダプターがオーバーインフ(薄め)であればピントを合わせることが出来ます.アダプターを加工して 0.2mm ほど薄くするのもいいだろうと思います.

最後に,収差図等の pdf を掲載しておきます.compensated.pdf
posted by しんさく at 00:04| Comment(0) | TrackBack(0) | カメラ