かねてから情報は伝わってきていましたが,当初はもっと盛大に行われるはずだったこのイベント,長い不況にリーマン・ショックが輪をかけた形になり,民間スポンサーがほとんど集まらず,大幅に事業縮小.会場の片隅に設けられた収容人数の極めて限られたパビリオン2棟のほかには,もとの平城宮跡のとおりに雑草の生えた平原が広がっていました.一方,平城遷都1300年祭とは独立に180億円という巨額の税金と9年の歳月を投入して建造した大極殿が威容を誇っている,といった具合で,入り口の朱雀門からは延々と北を目指して(途中,近鉄の踏切を渡り)草原の中を歩いていくだけで健康に良いイベントとなっています.
2つのパビリオンは入場整理券がなくては入れず,小さい子供もおり,かなり暑かったこともあったので,待ち時間の関係で今回はパス.そのかわり家族の希望で,大極殿脇で貸し出している衣装を借りてそのあたりを散策するというのをやってみました.
実はこの「平城遷都1300年祭」,一時は関係者でした.このイベントにおけるIT活用についての企画調査をする,という奈良県の委員会「IT1300フォーラム」のメンバーに呼ばれ,2006年1月から1年余りの間,何度か休日に奈良県の庁舎に出向いて会議に出る,またはメールで委員と議論したり報告書を作る,というものでしたが,兵庫県からは遠い!ほとんど一日仕事になる上,いただいた交通費では赤字になるというものでしたが,折角の機会なのでいろいろとアイディア出しをさせてもらっていました.
平城宮跡にはほとんど建物がなく,かなり想像力を働かせないと当時の活気に想いを馳せることはできません.そこで VR/AR (仮想現実感・拡張現実感)技術が使えないかと言うアイディアも出ていました.2006年2月に私が発信したメールを見ていると,次のようなことを書いていました.「GPS,姿勢センサ,それに電子コンパス(地磁気)があれば相当なことができ,理論上は端末を向けた方向の映像(当時の平城京の風景を再現したもの)を表示したり,目的地への道順の案内をしたり,ということは可能と思います」これは技術としては十分研究されていましたが,2009年6月に発売された iPhone にGPS, 姿勢センサに加えて電子コンパスが搭載されたことで一気に盛り上がった分野です.ほかに,来場者が入力した見どころ情報の集約のような,SNS的なシステムのアイディアもいろいろ出ていました.
しかしその後,委員会の雰囲気ががらっと変わります.そもそも「現地では何が出来るのか,どこまでならしてもいいのか」ということにも県からはまったく明確な返事がないような状態でした.そこに県の方からは,妙なちゃぶだい返しのような連絡が入るように.簡単に言うと,イベントは県が依頼したプロデューサが決めるので,委員会から提案があっても持っていく場所が難しく荷が重いだとか,異動で担当者が変わって前の話を全くわかってなかったりだとかで,メールには体制への苦情や,対応を問いただす長いメールが行き交うように.「委員の皆様は,なぜ現段階でこれなのか,と思われたと思います.つまり理解度の問題ではなく,我々の昨年の議論をそもそも見ていないと理解されかねない内容だったということです.」など.他にも徒労感,不信感という言葉が踊っています.・・それでもなんとか年度末には「技術提案書」の形にまとめられたのですが,おそらくそれはほとんどどこからも参照されず,ほとんど闇に葬られているものと思われます.
これまでいろいろなところでアイディア出しに呼ばれて参加してきたことがありましたが,私の中では徒労感のトップクラスに位置づけられるプロジェクトがこの一件でした.このイベントのマスコットキャラクター「せんとくん」のデザイン料や選考過程の不透明さが物議を醸したことがありましたが,この話を聞いたとき,私はまっさきに「さもありなん」と思ったものでした.
必要なところに誘導の人がいないのに,不要なところにたくさんいたりと,いかにも「協会」が運営しているゆえのまずさのようなものも散見されました.不況でスポンサーが集まらず,当初計画の何分の一かの100億円の予算に圧縮されたということですが,民間の資金はその 1/5 程度とも言われています.不況が憎いというと話が簡単なのですが,スポンサーが集まらない理由はこのような運営体制のまずさもあったのじゃないかという気もします.
会場に設営された,思ったよりこじんまりした「まほろばステージ」ではタイミングよく,せんとくんショーが開催されていました.せんとくんがひとしきり愛嬌を振りまいた後,なかなかシュールな「せんとくんダンス」が披露されていました.
ただ大幅に事業が縮小されたため,さすがにこれではお金が取れないということで,無料イベントにされたのは大変賢明な判断であったように思います.会場に入って散策し,大極殿を見学してくる分にはお金がかかりません.また,平城京はあえて妙な手が加えられておらず(資料が乏しく,規模や建築様式も他の建築物を参考に決められたため,奈良文化財研究所が「上部構造については想像の域を出るものではなく、復原建物が既成事実として安易に社会に受け容れられることは決して望ましいことではない。」とまで言う大極殿・・そのわりに近代的な建築方法を使わず,木材を宮大工が加工して作るという非常に贅沢なつくりの大極殿を除けば)建物などの復原もされていないのが平城宮跡のよさであると思います.そこをただぶらぶらとして,往時の賑わいとその後の歳月に思いを馳せるのが平城京の楽しみ方.それがいたずらに人工着色されていないのは,このイベントを取り巻くいろいろが産んだ,思わぬ副産物であると思います.
ただ遠方から長時間をかけてこられるならこの平城宮跡だけでなく,奈良の素晴らしい文化財,例えば興福寺や大仏殿,奈良公園にも足を運ぶと良いと思います.