2010年05月15日

ブロニカ本が出ています

といっても私が書いたわけではありません.ブロニカを使って動物写真を撮っておられ,多くの写真集やカメラ本を書いておられる吉野信氏が今月出された,「ブロニカ!僕が愛した伝説の中判カメラ」(光人社刊)のご紹介です.

bronica-book.jpg

ブロニカコレクターにして研究家の僕としては見逃せない本ですが,まあ,はっきり言って,僕が知らない新しい情報が載っているかも,という期待を持って買ったわけではありません.実際に読んでみると確かに,ブロニカ研究家の立場では目新しいことはほとんどありませんでした.ですがそもそも,この本はそのような主題のものではありません.ブロニカで実際に仕事をされていた方がブロニカとともに歩んだ歴史や体験が綴られており,リアリティがあって面白い本です.私などブロニカが発売されていた時代を知りませんからね(生まれはブロニカECと同じです).それに,以前カメラレビュー「クラシックカメラ専科」というコレクター誌(といって差し支えないでしょう)のブロニカ特集がほとんど期待はずれだったことを思えば,吉野善三郎氏の三男 吉野博夫氏にインタビューをされ,それに多くのページ数を割いてあるということだけでもかなり読み応えがあるものでした.

読んでいると「僕はコレクターではないので」という文言がちらほら出てきます.たしかにそうなのでしょう.その点では,私は(もちろん写真も撮っていますが)どちらかというとコレクター・研究家の範疇に入るのでしょう.ですが,別にコレクターを蔑むことはないと思います.コレクターも真剣です.カメラは写真を撮るためのものでしょう?という言葉に対し,知り合いのすごい方が「私にとってカメラは集めるものです.」ときっぱり言われたのが印象に残っています.そうです.切手も手紙を送るためのもの,自転車は移動手段に過ぎません,と言い切るのは野暮なことです.

この書籍では,ブロニカの精神そのものであるブロニカDも,ちゃんとタムロンで取材してあり,プロトタイプと初期型の2台の写真が出ています(これまでの書籍や記事にもよく登場したことがある個体のようです).吉野信氏はそのブロニカDに触れられて,軽さに驚かれたこと,欲しくなったことなど,D型に魅せられたことを書いておられます.そうだろうなと思います.これまで私の身の回りで起こった数々の事件から類推するに,きっと,D型の悪いバイキンが指先から入って,そのうち脳に伝わり,発症し,探しまわってしまうことになるのではと思うのですが,さてどうなるでしょうか.ちなみに,ご子息の吉野博夫氏もD型は所有しておられないそうです.

記事ではブロニカの外観と軽さには触れられていますが,フィルムを入れての実写をされなかったからか,D型が備える特徴的な機能(スタートマーク合わせ不要の完全オートマット,セルフタイマーを利用した10秒までのスローシャッター,フィルム平面性保持機構,自動復元式多重露出機構,ブロニカ最高の視野率など)に言及されていないのは残念な点です.ブロニカDは中身もすごいカメラだということを強調しておきたいと思います.

私は買ったカメラ以外にブロニカ関係者からお譲りいただいたものなど,回りまわってブロニカだけで10台以上を持っています.もちろんD型も非常に調子がよく外観も素晴らしいものを持っています.知人にも所有者が数名いらっしゃいます.やっぱり珍しいカメラなので,やっと手に入れたときはとても嬉しかったのを覚えています.・・しかし,「私などまだまだ..」と思わされた事件があったのです.


Bronica Collection-1.jpg

ある日突然,米国から私宛に送られてきたメール.添付ファイルがてんこ盛りで,この写真はそのうちの1つです.本文はこのような内容でした.

「キミはなかなかいいブロニカのウェブサイトをやってるね.だから僕のD型コレクションの写真を送ったよ.もしもウェブサイトに掲載したかったら許可をあげるけど,まあそれはともかく,楽しんでくれたまえ. *** ***, The Zenza Bronica Collector, U.S.A.」

本文の内容もさることながら,末尾の "The Zenza Bronica Collector" の文言にしびれました.この写真を見ると,もう有無を言わせません.クラシックカメラ店の店頭でもまず見かけることはなく,デパートの催場を借りきって開催される年に一度の大きなクラシックカメラ市をくまなく回ると見つけることが出来るんじゃないか,というカメラです.それが,なんと29台も・・・背後のアクセサリ類にも珍品がたくさんありますし,箱もよく揃っています.

とにかく,これは,世の中には「上には上」があるということを思い知らされた事件でした.私は脱力しきってしまい,まだ写真をブロニカのページに追加していませんが,そのうちやることにします.

このブロニカの本,読んでいると少し(細かいところで)訂正したいところが散見されます.例えば,何度か出てくる,吉野善三郎氏が1950年ごろに私財1億円を投じてカメラを開発した(今でいうと数十億円になるでしょうか)と書かれている部分.吉野博夫氏もそう言っておられます.しかし,当時の善三郎氏のインタビュー記事(週刊朝日,1959年5月10日号)の現物を見てみると,2億円と書いてあるのです.他にもEC型が引き蓋ポケットをつけたことについて「どこもやってなかった」(1972年発売のECに先行する Rolleiflex SL66 が 1966年に引き蓋ポケットを備えている)など.また,ブロニカが不振となり売却にいたるまでのストーリーも,いろいろと関係者から伝え聞いたこととは少し異なる部分もあるようです.しかし,まだ関係者がいらっしゃるし,やはりそのようなことは聞いてみると生臭い話ばかりで,とても「ブロニカ開発秘話」に書ける話ではないようなことも多くあります.ブロニカを研究して,わかったことは結局,見た目には単なる1つのカメラであっても,その背後には様々な人間ドラマがあるということなのです.特にブロニカはそのような意味でとっても人間臭いカメラで,そこが魅力なのですが,この本の読後感はまさにそれで,このことがこの本の真の主題かもな,と思ったのでした.

なお後書きにも書かれていますが,筆者の吉野信氏は,ブロニカ創業一族の吉野家とは血縁関係ではないとのこと,あしからず.
posted by しんさく at 01:13| Comment(0) | TrackBack(0) | カメラ
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