毎日の猛暑で、テレビでは危険なので外出を控えろと繰り返されています。そんな中、通勤先に到着して車から出ようとすると、内側のドアノブ(ドアを開くときに引っ張る銀色の部分)の感触に違和感があり、手を離しても元の位置に完全には戻らず、グラグラになりました。中で何かが折れたのだろうと、ネットで検索すると案の定。このころのボクスターやケイマン、911(987, 997)では定番の故障らしく、多数の情報が見つかります。ドアノブを引き込むバネを支えるプラスティックパーツが折れてしまうようです。さすが、ポルシェは徹底的に軽量化を図っているということですね笑(笑 の意味は後述)。
そこでドア内張りを剥がしてみると案の定、フックの部分が壊れています。ただしネットでよく見るのはバネの押さえが折れるケース。それに対し、うちの場合はなんと回転軸そのものが折れていました(赤の両矢印)。さらに根元にもクラックがあります(青の矢印)。ともあれ、この折れる方の右のパーツは稚拙な設計で、頑丈な左のパーツと同じ人が設計したとはとても思えない、CADの初心者が設計したような形状をしています。
さて、このパーツを取り出すため、ドア内張りを剥がすだけでも一苦労です。ですので、普通は部品を手配してから作業すべきところですが、なぜその日のうちにすぐバラしたのか。それはなんと、このボクスター、「こういうこともあろうかと」予備の部品を最初から搭載しており、交換部品がなくても修理できるのです。さすがポルシェ!・・青矢印の指した部品をよく見てください。この部品、左右対称になっています。なんと左右のドア2個分を1つの金型で済ませるために、左右対称にすることで部品を共通化してあるのです。(ただし、上の写真に写っている2つのパーツとバネが組み立てられた状態で左右それぞれに1つの部品番号が与えられていて、バラバラには買えないので、在庫削減効果はありません)。つまり、反対側に出っ張った軸やバネ受けなどの突起は全くの無駄・・・いや、予備部品としてこれから使うので文句は言えませんね。
これをみて「ああ、いつものポルシェのやり口だな」と思った人はポルシェに詳しい人だと思います。ポルシェは水冷化の時期(つまり986 型のボクスターと996型の911の時代)から、やたらと部品共通化によるコストダウンを図っているのです。例えば大物ではエンジンのシリンダーヘッド周りが左右バンクで共通になっています。ヘッドブロックそのものは部品番号としては別になっていますが、ほぼ同形状で、これは金型が共通で機械加工が異なるためのようです。なおヘッドカバーやカムホルダー・ヘッドガスケットなどは左右が部品番号からして共通です。このために左右バンクでカムチェーンが前後に分かれており、それを駆動するために悪名高きインターミディエイトシャフトが必要になっているのですが・・またサスペンション周りでも、当初はハブキャリアがフロントとリアで共通部品(前後逆に配置、つまり対角線方向に共通)だったり、ロアアームに至っては前後左右4つが共通でした(これも時期によって設計変更され別部品になっているものもあります)。そもそも、値段が倍ほども違うボクスターと911で、前席から前はかなりの割合で部品が共通であることはよく知られており、大衆車に比べ少量生産であるハンディをできるだけ克服しようとした形跡が多く見られます。そのため、必ずしも軽量化が最優先にされているわけではないのです。まあ、これらのコストダウンの成果により、アルミ製のサスペンションアームなど、高価な素材が使用できている側面はあります。
ともあれ、長くなりましたが、修理は簡単です。左右のドアノブのヒンジを取り出し、この折れたパーツを左右で入れ替えるだけです。もっとも、この部品は3,000円程度だそうで、左右の内張りを両方とも剥がすのも面倒なので、部品を買ってしまうほうが早いかもしれません。ただし、現在の部品は設計変更されており、ボーデンケーブル(ロック機構とドアノブを結ぶワイヤー)も同時交換が必要で、このワイヤーの交換はかなり面倒です。またこの折れた部品だけを換えるにはヒンジの分解組み立てが必要で、バネが硬いので、細くて丈夫な丸パイプを使うなど工夫して作業する必要があります。
こんな方法で部品を買う必要も、到着を待つ必要もなく、壊れたその日の晩に修理完了となりました。しかし製造から10年以上暮れており、距離も13万キロ近く。あちこちの樹脂部品がかなり劣化しています。そのうち結局折れてしまって交換することになる気もします。
2020年08月21日
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