ヨーロッパでは今でも模型用エンジンを作っているところがあるようで、例えばイギリスのP.A.W (Progress Aero Works)は様々な仕様・大きさのエンジンを展開しています。0.55cc と小さく、回転数が制御できるバージョンもあり非常に魅力的ですが、ebay では結構高くなることと、燃料タンクや配管に面倒がある(ディーゼル燃料はグロー燃料よりも樹脂を溶かしやすく、材質を選びます)ということで、今回は整備用の工具やマウントなども一通り持っており、扱い慣れてきた Cox のものを購入しました。Cox は北米の会社なのでそもそもはグロー方式のエンジンしかなかったのですが、それをディーゼルに改造するヘッドが開発されており、それを搭載したエンジンが新品で売られています。タンク付きのBebeBeeタイプのエンジンではクランクが折れやすいということですが、その対策部品(強化クランク)も最初から搭載されています。
この手の模型用ディーゼルエンジンはどれも、ヘッドにネジがついています。これは圧縮率を調整するためのもので、模型用ディーゼルエンジンの肝とも言える部品です。自動車用のディーゼルエンジンでは燃焼室内で圧縮された空気に燃料を高圧で噴射して燃焼させますが、模型用ディーゼルエンジンでは混合気を吸入して圧縮添加する、予混合圧縮着火という方式になっています。そのため点火タイミングは圧縮率で変化し、それをコントロールする必要があるわけです。ネジを締め込むと、通常のピストンとは別のヘッド内のピストン(カウンターピストン)が押し下げられて圧縮率が上がる仕組みです。
実際に動かしてみました。Cox によると慣らし運転(ブレークイン)をまず通常のグローヘッド・グロー燃料で行えとあるので、タンク2回分ほどならし運転をし、ヘッドを交換します。圧縮比と空燃比の両方を調整しないとならないので、なかなかうまく回るところが見つけられず少し苦労しましたが、無事始動しました。圧縮比を上げつつ燃料を薄くすると回転が上がりますが、あまり攻めるとオーバーヒートするそうで、程々がいいようですが、同じ排気量ではグロー燃料よりもトルクがあるそうで、より大きなプロペラが好適となるようです。
使ってみた感想は以下の通り。
良い点:
- 最大のメリットはやはり、グローヘッドを加熱する電池の接続がいらない点でしょう。
- 端切れのいい音で、低速でもトルクフルで、大きめのプロペラを少し遅めに回すのに向いているようです。
悪い点:
- よく言われることのようですが、グロー方式よりも始動が難しいです。いいセッティングが見つかったと思っても、同じポジションでまたすぐ始動するかというとそうでもなく、ヘッドが温まっているかどうかによってかなり変わるようです。まだ始動時はかなり圧縮を高めにして燃料も濃くする必要がありますが、周り出すと燃料を薄くして圧縮比を下げる必要があり、よいポジションで固定することも出来ません。
- 燃料の違いによるものか、かなり匂いがします。グロー方式は燃焼時の匂いが薄いだけでなく、燃料もさほど匂いませんが、ディーゼル用の燃料はかなり匂います。灯油の匂いが主体ですが、他の匂いもあります。また燃焼時の匂いも濃く、エンジン回転中に白い排ガスが見えることもあります。かなり服に臭いが染み付きました。今回はあまり問題になりませんでしたが、燃料タンクや配管の材質にも注意が必要だそうです。
- 燃料の粘度が高く、また油が拭きづらいです。グロー燃料はサラサラで、いかにもアルコール主体という感じで拭き取れば油もかなり取れますが、ディーゼル燃料のオイルは自動車用(2スト含む)のオイルのようで、石鹸で手洗いするときも2回ぐらいはしっかり洗わないとヌルヌルがとれません。もちろん模型や周囲の機器の油汚れもかなり落ちにくいです。個人的にはこれが一番きつい気がします。
そういうことで、電池がいらないのはいいのですが、始動にかかる手間が少ないわけでもなく、取り扱いの面倒さ、燃料の価格なども考えると、ちょっと移行するには難しいという感じでした。とはいえ使い慣れたわけでもありませんので、もうちょっと試して見る必要があるかもしれません。また 0.8cc でなく、もっと大きいエンジンなら安定しており始動も楽かもしれません。
実はもう1つ、こんなエンジンも入手しています。なんとこのエンジン、カメラやレンズで有名なドイツ・カールツァイス(第二次大戦後、東側になったカールツァイス・イエナ)が1960年頃に製造していたエンジンで、1cc のものです。できたらこれも動かしてみたいところですが、手で回してみた感じからすると気密が下がっているようで、これでは圧縮着火は難しいかもしれません。タンクを繋がないまでも、プライミングで初爆ぐらいは確認したいところですが・・