2020年06月21日

ホバークラフトの理論(2)推進と圧力損失について

ホバークラフトが浮上する理屈に続き、今度はどうやって走るのかについて考えてみます。

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ホバークラフトは基本的に、ファンで空気を後方へ飛ばすことで進みます。この進む力(推力)は、後方へ送られる空気に重さがあることによる作用・反作用の関係で生じますので、推力は、この飛ばされる空気の重さと飛ばす速さの積で決まります。空気の重さは1m3あたり約1.3kgなので、大型ファンで毎秒3m3の空気を送れば、1秒ごとに4kg近くの重りを後ろ向きに飛ばしていることに相当します。つまり、1秒間に4kgの重りを静止状態から風速まで加速しているのと同じことになり、その加速に必要な力は運動方程式から定まります。

とはいえ、この図にあるような 180m3/分、風速6 m/sのファンは工事現場で使われる業務用の大型送風機ぐらいの能力で、それでも2.4kgの力というと意外に小さい気がします。十分な推力を得るのはなかなか並大抵なことではありません。台車に乗って4kgの重りを全力で投げても(またはバケツの水を全力でぶちまけても)、自分は大して動かないのは想像できると思います。

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それでは推力を得るにはどれぐらいのパワー(馬力)が必要なのでしょうか。実は、推力とパワーは直接的には対応しません。この図は、同じ推力を生む2つのファンを比較しています。上のファンに比べ下のファンは大型ですが羽根の回転が遅く、風量が多いかわりに風速が半分です(直径が2倍だと断面積が4倍なので、風速が半分でも風量が2倍になります)。推力は風量と風速の積で決まるので、これら2つのファンは推力は同じなのですが、風に与えるエネルギーは上のファンのほうが大きくなります。運動エネルギーは 0.5mv2という式で表されるように速度の2乗に比例するので、上のファンのほうが2倍のエネルギーを要するのです。つまり、できるだけ少ないエネルギーで大きい推力を得るには、大風量・低風速のほうが良いことになります。

ヘリコプターのメインローターが非常に大きいのもこの理由で、自重に抗して浮き上がるための推力を効率良く得るために大きなローターが使われるわけです。強力なジェットエンジンを搭載した戦闘機にも自重を上回る推力を持つものがあります(機体が上を向いた状態でほぼ静止する「コブラ」と呼ばれる機動をするには、自重を上回る静止推力が必要です)が、これに比べてヘリコプターのエンジンはより小さな力でホバリングできるわけです。自動車で言えば、大きなファンは1速のギアで、ジェットエンジンはトップギアのようなものです。大きなファンのほうが小さなパワーで大きな推力を得られますが、風速が遅いために速度が一定以上には上がりません。ジェットエンジンではパワーあたりの静止推力が小さい代わりに高速時にも大きな推力が得られ、その領域でパワー効率が高くなります。

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このあたりで実際に製作したホバークラフトを例にして計算してみましょう。前に紹介した、PCの冷却ファン(ケースファン)を用いたホバークラフトについて、使用したファンのスペックを調べると、全く同じ型番ではありませんが軸受の形式が違うだけのものが見つかりました。風量と風圧のスペックはそれぞれグラフの両端を表す値のようなので、グラフから適当な1点を選んでその値で計算してみます。その値では最大重量は600g、それに対して実測の重量は400g足らずで浮上することになりますが、もう少し重いもののを乗せると浮上できなくなったので,おおよそ値は合ってるようです。ファンの風力の一部を推力に使っており、それから計算した加速力は0.25m/s2。これもおおよそ体感にあっているように思えます。

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もう1つの、エンジン式リーフブロワを用いたホバークラフト。こちらは思ったよりも少し浮上力が小さいようです。そこで調べてみると、こちらは配管を空気が通ることによる圧力損失が災いしているようです。そこで圧力損失について調べてみることにしました。しかしこれまでの浮上力や推力と異なり、圧力損失は管の滑らかさや曲がり方など細かな形状によって影響の受け方が大きく変化し、なかなか理論通りには行かない部分があります。

理論的には、圧力損失は管の長さと太さ、風速によって変化します。管の太さは分母にあるので、当然、細くなるほど圧力損失は大きくなりますが、いざ同じ風量を通そうとすると影響は遥かに大きくなります。半分の太さになると断面積は1/4になり、同じ風量を通すには4倍の風速が必要となります。風速が4倍になると圧力損失は16倍となり,もともとの太さによる影響と合わせてなんと圧力損失は32倍にもなってしまいます。

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圧力損失の式は分野によって呼び方が違うようですが、いずれも前ページで示した関係を表しています。摩擦損失係数は導出が難しいようなので表から「なめらかでまっすぐな管」の値を持ってきましたが、それでも今回のホバークラフトで用いた内径3cmはいかにも細すぎ、ブロワの圧力の半分ほどを失うことになるようでした。また先に述べたように風量を少しでも増やそうとすると圧力損失が急激に上昇するため、よくて2m3/min程度の風量しか通らないようです。

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リーフブロワの能力を当てはめて計算してみたところ、非常に強力なブロワを用いているのにも関わらず浮上高は1mmを切ってしまっていました。そこで26%ほど太い、内径38mmの配管に変えたところ浮上力はかなり上昇しました。これにより、平滑なモルタル床だけでなく、凹凸が少なめのアスファルト路面でも少しは走るようになりましたが、荒れたアスファルトではやはり抵抗が大きいようです。しかしこれ以上となるとノズル部分の設計を根本的に変える必要があり、それを太くしたところで砂利道や草原では走れそうにありません。ただでさえ少ないブロワの風量を浮上と推進に分けることと、浮上用の風圧を配管を通して送る構造の限界かなと思います。もっと浮上用に多くの空気を回すとアスファルト路面でもなめらかに走行できそうですが、そうすると今度は推力が小さくなり、わずかな傾きでも登らなくなるでしょう。リーフブロワ単体で浮上と推進を賄う構造は、乗用でなくても意外と難しいテーマでした(もっと太い配管を用いて浮上と推進を賄えば性能改善はできると思います)。

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ホバークラフトに用いるブロワの形式についても少し考察してみました。風を送る装置としてはまず、扇風機に見られるような軸流ファンが想起されますが、風速が重要となるリーフブロワには遠心ファンが広く用いられています。遠心ファンでは空気を回すことにより空気に働く遠心力を用いて空気を送る装置で(空気の回転速度ももちろん利用されます)、高い圧力が得やすいことが特徴ですが、口径が小さいために風量が限られやすく、高圧(高速)で低風量な送風機向きです。大風量の送風機はやはり扇風機タイプの軸流ファンですが、遠心ファンとは逆に圧力が上げにくいことが欠点として挙げられます。
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ホバークラフトでは浮上力と推力で向き不向きがあります。浮上用には圧力が高めやすい遠心ファンも利用することができ、小さな動力で人が乗っても滑るようなホバークラフトはリーフブロワのほかに掃除機のモーターや黒板消しクリーナーなどでも作れることが報告されています。しかしいずれも風量が小さいため浮上高が小さな値にとどまり、なめらかな床面上で滑る程度のものしか作れません。海外を中心に、一人乗りのホバークラフトが市販品・自作品ともにありますが、これらでは大型の軸流ファンを用いたものが多くなっています。そういうものでは浮上のための圧力を得るためにかなり大型のエンジンを搭載する必要がありますが、草原などの不整地でも浮上・走行できるものになる傾向が強いようです。一方、前述したように推力を得るには風量が重要なので、軸流ファンのほうが向いています。旅客機のターボファンエンジンやヘリコプターのローターなど、推力を得る目的の送風機は実際にほとんどが軸流ファンとなっています。

なお国内では法体系的にも、また走らせる場所的にも乗用の小型ホバークラフトはかなり難しいようです。ファンとエンジン双方から発する騒音が非常に大きいことと、排ガスを発することも走らせられる場面をかなり限定します。ブラシレスモーターや電池の改良により、電動でも非常に能力の高いファン(EDF : electronic duct fan などでも、数百gの重さで1kgを超える推力のものがざらにあります)が増えてきたので、電動で作るほうがずっとパワフルで遊びやすいものになるでしょう。
posted by しんさく at 22:14| Comment(0) | TrackBack(0) | ラジコン
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