停止状態ではタイヤとボディの間の隙間が狭くて手が届かず、バンプラバーの上端がどこかわからなかったのですが、ジャッキアップして、そのときに伸びた分を考慮すると、どうもかなり圧縮側(縮む側)のストロークが短いようです。そこで右の写真にあるようにスプリングシートを右へ回して上に上げ(つまりプリロードをかけて)、その分ボトムケースも上に上げ(実際にはサス全体を左へ回してボトムケースにねじ込み)、車高を変えずに圧縮側のストロークを大きくしました。その分、伸び側のストロークは短くなりましたが、乗ってみた結果やはり底突きが解消されたようで、大きい段差でガツンというショックが入りにくくなりました。
プリロード調整をするとバネ定数を上げるのと同じ効果があるとか言うような間違った解説を以前はよく見ましたが、流石に最近では少なくなってきたようです。ですが、どうもわかりやすい解説ばかりではないようなので少し説明をしてみることにしました。上の図は、車両が地面に置かれ、サスには車重がかかった状態(1G状態)です。今回の調整ではスプリングシートを上に上げ、それと同じ分だけボトムケースも上に上げているので、1G状態ではバネの長さや車高などは全く変わらず、ダンパーのアウターケース(紫色)が下に下がっただけです。そのためバンプラバーの上のスペースが広がり、圧縮側のストロークが伸びます。その分もちろん伸び側のストロークは縮みます。
プリロード調整を行う最中は車両をジャッキアップし、上の図のようにタイヤが地面から離れます。このとき、ダンパーは伸び切った状態になり、長さは一定です。そこでスプリングシートを回して締め込んでいくと、バネが縮んでいきます。最初は軽いのですが締め込むにつれて力がかかって重くなりますので、なんとなく直感的にはバネが固くなったような気がするのでしょう。ですが先に書いたように、実際にはジャッキを外すとバネにかかる車重は同じなのでバネの長さも同じになり、仮に非線形なバネであったとしてもバネ定数は変わりようがありません。プリロードを上げるだけだと車高がそのぶん上がってしまいますが、今回のような全長調整式(フルタップ)の車高調であれば純粋に伸び側と圧縮側のストロークの配分を変えることができます。ただし圧縮側のストロークを伸ばすほど伸び側のストロークが短くなるので、上の図のようにジャッキアップ状態ではタイヤから地面までの距離が長くなっていきます。ここからジャッキを外したときにサスがまったく縮まないようだとプリロードのかけすぎで、伸び側ストロークが0ということになってしまいます。
圧縮側の動きは上のムービーのような感じになります。
このように、伸び側と圧縮側のストロークのバランスを取ることは、「サグ出し」と言われオフロードを中心にバイクの分野では重要な調整項目なのですが(普通、伸び側に対して圧縮側のストロークを2倍にする)、自動車ではあまりこの用語は使われないようです。このサス、こちらに書いたようにまず初期値としてゼロタッチ(プリロードがほぼ0で、遊びを殺しただけの状態)でしたが、ゼロタッチはもっとも圧縮側のストロークが短い状態です。車高を下げすぎたり、車高を一定に保ったまま圧縮側のストロークを伸ばしすぎるとサスが縮んだときにタイヤがボディ(タイヤハウス)に干渉する可能性もありますが、現在の状態(フロント20mm、リア15mmのプリロード。車高はノーマルから-20mm)では問題ないようです。