参考
http://eps-r.hatenablog.com/entry/2017/11/16/welte
http://nozomi.2ch.sc/test/read.cgi/shop/1507605776
Light L16 は16個ものカメラを備え,高解像度の写真を撮影したり,背景を事後的にぼかしたり出来ます.しかし,個々のカメラモジュールにはスマートフォン用の画像センサを利用しており,フルサイズセンサに比べると面積は 1/50 ほどしかありません.それでは暗所性能(高感度画質)は低いのでしょうか.そこで,通常の家庭の締め切った屋内程度の明るさでテストしてみました.シャッター速度 1/60秒,絞りF2.8でISO500前後というそこそこの暗さです.Light L16 での撮影結果をまず示します.
これぐらいの暗さなら,比較的スッキリした写真が撮影できます.
つぎに,比較対象となるカメラとして,解像度テストと同様にフルサイズセンサを搭載したカメラ2機種(Nikon D800E, Sony α7)に,ちょっと古いのですが明るさを優先して Nikkor AF 35-70mm F2.8D を装着して撮影しました.絞り値はF2.8開放,F5.6, F14 の3通りです.解像度の違うカメラ同士を画素等倍で比較すると不公平なので,すべての画像を幅6000画素にリサイズしてあります.また,すべての画像は特定の位置の画素値が同じになるように現像しており,また,後に述べますが,ノイズレベルが同等になるようにノイズ除去処理を施してあります.チャート中央部の拡大写真は以下の様なものです.
絞り開放ではレンズ収差のため甘い像となっていますが,F5.6では非常にシャープとなっています.しかしF14まで絞ったものでは,ノイズ除去処理の影響もあり,また甘い像になっています.
次に,もっとも高感度画質が良いであろう,Nikon D800E, 絞りF2.8 の時の写真全体を示します.
サムネイルを見ただけで分かる,L16 での撮影結果との違いが2点あります.1つは開放絞りのため,周辺減光が生じていること.もう1つは,被写界深度が浅いことです.Light L16 の絞りはF2またはF2.4 ですが,撮像素子が小さいため,被写界深度はF15相当になります.チャートよりも奥においた温度計の部分を切り出した写真は次のようになっています.
一目瞭然で,計算通りF14程度に絞らないと Light L16 と同等の被写界深度にはなりません.しかしそうすると,必然的にカメラに入る光量が減少してしまいます.F2.8 のときに比べると,F14 だと 1/25 にも減少してしまうのです.それによって,同じシャッター速度を保つためには感度を上げざるを得なくなり,ノイズが増えていきます.
この写真は引き伸ばし機のヘッドの一部の拡大です.ちりめん塗装の間に樹脂製の帯がありますが,この部分のノイズレベルができるだけ同等となるようにノイズ除去処理の強度を調整してあります.F2.8の例では,被写界深度の浅さにより少しぼけてしまっています.それに対し,F5.6 では被写界深度が深くなりちりめん塗装の模様がはっきりしてきます.しかし,F14 に絞った例では,非常に強力なノイズ除去処理を施す必要があるため,これによって上下のちりめん塗装の模様がノイズと誤認されてしまい,のっぺりとしたテクスチャになってしまいました(それでも,黒色の帯部分にはまだかなりノイズが残っています).それに対して Light L16 では塗装部分のテクスチャも残しつつ,帯の部分もきれいに撮影できています.
なぜスマートフォンのセンサなのに暗所性能が高いのでしょうか?実はそもそも,スマートフォン用センサの面積あたりの性能(量子効率,低ノイズ性等)は低くないのです.しかし全体の大きさが小さいために,同じ画角・同じF値のレンズでも口径が小さくなってしまい,レンズに入る光子の数が少なくなります.結果として,1つ1つの画素に入る光子の数も少なくなってしまうのです.ISO100 の撮像素子が適正露出で露光されている時,スマートフォン用撮像素子の一辺 1μm の画素にはたった400個程度しか光子が届きません.それに対し,フルサイズセンサの画素は一辺5μmほどあり,同じISO100でも光子の数が25倍,ノイズレベルは 1/5 となります.これがフルサイズセンサで撮影した画像の滑らかさを生み出しているわけですが,同時にレンズが大きくなることで,被写界深度が浅くなってしまいます.結局,被写界深度を確保しつつ感度を上げていくことには,光が粒子である以上,(普通のカメラでは)限界があるのです.
画像のノイズは主に,この光子数の少なさに起因するノイズ(ショットノイズ)と,センサの熱エネルギーが生じるノイズ(熱雑音)の2つです.ショットノイズは上記の通りレンズに入る光子数で決まってしまうので,口径の大きな,被写界深度の浅いカメラほど有利になります.しかし熱雑音は,センサが大きいほど不利になります.フルサイズセンサを搭載したカメラは(画素が大きくショットノイズに影響されにくいために)ISO感度を上げやすいメリットがありますが,1画素あたりの光子数が同じだと,熱雑音の影響が強くなります.-18度ぐらいに冷やすと非常に良くなりますが,常温では,同じ被写界深度を得るためにはかえって不利なのです.
Light L16 では多数のカメラを備えているために,同じ箇所を異なるカメラで同時に撮影することが出来ます.これを重ね合わせることでノイズを減少させることも出来ます.大口径レンズが多くの光子を捉えるのと同様のノイズ低減効果がありますが,1つのレンズで光を集めるのとは異なり,小さな領域ごとに位置合わせを行うことで被写界深度を浅くすることなくノイズ低減ができます.他には,複数の(被写界深度の浅い)レンズで,互いに異なった距離にピントを合わせ,それらを合成して元の画像よりも被写界深度が深い画像を生成する「フォーカススタック」という技術もあります.被写界深度の伸長は,ぼけ生成とは逆の技術ですが,これもまた「コンピュテーショナルフォトグラフィ技術」の1つの有望な用途だと言えるでしょう.
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