2015年11月09日

ミラーレスカメラ+広角レンズの画質改善

前にこちらの記事で,ミラーレスカメラに古い広角レンズを装着したときの問題を取り上げました.ミラーレス一眼カメラではセンサの前に赤外線カットフィルタや光学ローパスフィルタなどのガラス板状のものが取り付けられており,これが光が斜めに入射する画面の周辺部で収差を発生させ,画質を低下させるというものでした.

自分自身,計算の結果,その影響が思いのほか大きいことを再認識し,これはぜひともなんとかしたいと思っていました.1つの方法は赤外線カットフィルタや光学ローパスフィルタを撤去することで,これは天体写真を撮影される方がよくやられており,やってくれる業者もあります.しかし色再現に難点が出たり,カメラの保証がなくなったりするリスクもあり,今ひとつ手が出ませんでした.そうじゃなく,なんとか光学的に補正できないものか・・と.

compensator.jpg


で,せっかく光学設計ソフトウェア OSLO でシミュレーションしたのだから,ついでに今度は,レンズの前にどんな補正系を置けばこの収差が補正できるのか試してみました.というのはそもそも,このガラス板が発生させる収差が凹レンズの収差によく似ており,どこかに凸レンズを入れると補正できるのではないかという直感があったのです.その結果たどり着いたのが,上の図の赤枠で囲んであるところに相当する,ごく度の弱い凸レンズでした.

diagram-compensated.jpg


上の図では理想レンズ(例によって 21mm F4 を想定)の前に,一方の曲率が 1000mm,もう一方が平面の平凸レンズを配置しています.ガラスはやはり BK7 です.この構成では,補正レンズの焦点距離は約 2000mm となります.このときの収差補正の状況を,補正前と比較したのが以下の図です.

comp1.jpg


この図で左は補正前,右は補正後です.まず見て欲しいのは中央上の ASTIGMATISM(非点収差)の図ですが,この設定で中間画角までは収差がほぼ完全に補正されます.端の方は過剰補正となっているので,フルサイズを前提にするならもう少し度の弱いレンズにした方がいいのですが,今回は APS 判を前提として,中間画角までの補正を優先しました.またそのすぐ右の球面収差図では,少し球面収差の量が増えていますが(横軸のスケールが違います),色収差がほぼ完璧に打ち消されていることが分かります(右上の軸上色収差図でも,色収差が 1/100 ほどになっていることが分かります).ほかにも歪曲収差や倍率色収差(中央下)も小さくなっており,ほぼすべての収差が小さくなっていることが分かります.これは期待できます.では点像はどのようになっているでしょうか.

comp2.jpg


この図でも,補正後(右)はスケールが倍になっている点に注意して下さい.APS判の隅が中段に相当しますが,点像の広がりは 1/5 程度になっていることが分かります.中央の像には悪影響を与えていません.さすがに単レンズでは画角90度のレンズの端まで補正するのは難しそうです.では最後に MTF です.

comp3.jpg


一目瞭然で,やはりAPS判の範囲まではほぼ完全に補正できています.元のレンズの収差を考慮すると,十二分な効果だといえそうです.

これはよさそうだ!ということで,早速試してみることにしました.ちょうど,ケンコーが焦点距離 2000mm のクローズアップレンズ(NO.05)を出しており,これがよさそうです(ただしフィルタ径72mmのものしかありません).とりあえずこれは注文しておいて,まずは手元にある以下のレンズで試してみました.

DSC_0818.jpg


このクローズアップレンズは,ブロニカ用のニッコール 200mm F4 に付属していたものです.ブロニカはそのシステム上,200mmレンズでは最短撮影距離が3.3m程度になってしまうので,このクローズアップレンズを使うことで1.8m 程度までの近接撮影が出来るようになっていました.仕様的に 3.5m (3500mm)ぐらいのレンズのようですので,補正不足ですが,まずは試してみましょう.Carl Zeiss Biogon 21mm F4.5 の後玉のガードを外し,NEX-5R に装着します.そしてその前に(適切なステップアップリングがなかったので)このレンズをかざして撮影.少しピントの調整も必要になります.

wo-compensator.jpg w-compensator.jpg
左:補正前,右:補正後


comp-closeup.jpg


撮影結果から隅のほうを切り出した写真を見ると一目瞭然ですが,周辺部のハロ,甘さがぐっと改善しています.当然かも知れませんが効果てきめん,理論通りの結果で嬉しくなります.また改めて,名レンズ Biogon の本来の性能の高さを思い知ることになりました.

画角 70度近辺までなら効果がありそうなので,続いてフルサイズセンサを備えたミラーレス一眼の Sony α7に 28mm レンズ(W-Nikkor 28mm F3.5 銀鏡筒 3xx番台)を装着してテストしました.

28mm-wo.jpg 28mm-w.jpg
左:補正前,右:補正後


comp2-closeup.jpg


やはり周辺部の流れが補正され,まとまった画質になっています.やや補正不足のようですが,周辺画質にはレンズそのものの収差も大きく影響するので,フルサイズ・等倍・開放絞りの周辺画質としては上々だと思います.

レンズの前に凸レンズをつけたことになるので,無限遠にはピントが合わなくなります.ただし本体のレンズに比べると極めて度が弱いレンズなので,マウントアダプターがオーバーインフ(薄め)であればピントを合わせることが出来ます.アダプターを加工して 0.2mm ほど薄くするのもいいだろうと思います.

最後に,収差図等の pdf を掲載しておきます.compensated.pdf
posted by しんさく at 00:04| Comment(0) | TrackBack(0) | カメラ
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