せっかくの夏休みの時期ですが、新型コロナウイルスの再流行に加えて、連日の猛暑。帰省もせず、遊びに出かける気にもならず、お盆休みはほぼ、じっと家にいました。で、新しいホバークラフトが出来ました。
レース用ホバークラフトと同様の、大型ファンを後方に向けて推進用と浮上用に分流する設計のものはいくつか出来たので、今度は全く異なる設計にチャレンジすることにしました。レーシングホバークラフトでは浮上しようとすると同時に推力が生まれるので、浮上したままその場でじっとすることは出来ません。静止できる方がむしろ浮上感があるとか、狭いガレージで遊べるとかいうこともあるので、今度は推力を0にできる構造にします。
例によって Blender で試行錯誤しながら上の図のような機体を設計しました。中央には縦にエンジンとプロペラを置き、気流をボディ内部に吹き込みます。その気流をボディ底の周囲から吹き出すことで浮上します。空気をボディ内側に向かって斜めに吹き出すことでボディ下部の圧力を漏れにくする、スカートレスホバークラフト構造としました。またボディ内部には後方の吹出口(推進用)に加え、ボディ前方に、左右向きに空気を吹き出すことで向きを変える仕組みを組み込みました。ボディ後方に舵をつける設計では、右に曲がろうとしたときに一時的に反対向き(左向き)にボディを押すことになりますが、前方なら自動車が前輪で舵を切るように向きを変えたい向きに力を加えることになり、無駄がなくなるためです。空気の吹き出し量は前後ともにロータリーバルブ式とし、後方の推進用は横軸、前方の操舵用は縦軸でバルブが回るようにしました。
設計ではこのような仕組みだけでなく、いかに軽さを保ちながら強度を出すかという点が問題になります。複雑な構造のために重さがかさむので、外皮の造形は1層だけにしますが、それでは特に縦方向(積層方向)の強度が非常に乏しくなります。実際に、縦の柱はほとんど強度が出せなかったので、造形パラメータを変えることでより強度の高い別部品を作って接着したり、UVレジンを塗布して強化する必要などがありました。また、3Dプリンタで造形しやすい構造にすることも重要です。極端なオーバーハングがあると造形が難しくなるため、できるだけオーバーハングは45度以下となるよう設計しました。今回はボディを上下の2枚に分け、上ボディは転置逆にして造形します。3Dプリンタの造形範囲の問題でボディサイズは縦28cm、横26cmです。
他にもいろいろと考えるべきことがあります。バッテリーを内部に装着する作業はプロペラが止まっている間にできますが、エンジンが掛かってしまってからは内部に手を出せないので、燃調を調整するニードルを操作できるよう、底に最低限の窓を空けました。また、燃料の供給を簡単にするため、パイプで真上から給油できるようにします。このパイプは同時に、燃料をタンクに十分に満たせるようにする役目も果たします(パイプがないと半分ぐらい入れたところで溢れてしまう)。グローヘッドを加熱する電源は普通、クリップで装着し、エンジンがかかると取り外しますが、それができないためヘッドに配線を固定してしまい、ボディ後部にコネクタを設けて電池を接続できるようにしました。上の写真ではエンジンが直接ボディに装着されていますが、これではやはり強度が不足するため、これも最終的には密度を上げた別パーツを作ってそれにエンジンを固定するようにしています。
設計からテスト走行までを動画にまとめました。今回のホバークラフトではいろいろな懸念がありました。大きさが小さく、特にボディ下面の風圧がかかる領域は 500cm
2 程度しかありません。ファンの風圧に対してさほど余裕がないため、ボディを気流が通過するときの圧損を考えると浮上しないのではないかといった懸念のほか、推力の不足や、推進しようとすると圧力が逃げてボディが接地してしまうのではないかといった基本的な問題。さらに、ファンが縦軸周りに回転しているため、ボディが逆に回ってしまうという問題が考えられました。試運転の結果、浮上性能には問題がないことがわかりましたが、やはりボディは回ってしまいます。ファンの上に、気流を補正する静翼をつけたところ今度は反対向きに回ってしまう始末。その加減もいろいろな状態で変化するようで、静翼で調整するのは難しいと考え、ジャイロを搭載して自動補正するようにしたところそれなりに真っ直ぐ進むようになりました。
しかし問題がまだいろいろ残っています。最大の問題はエンジンの安定性。そもそも縦向きにして使うことが考慮されていないエンジンのため、動作しないことはないのですが、燃調が不安定となり、エンジンが掛かりづらいほか、かかった後でも急に止まったりします。このタンク一体型のCoxエンジンはニードルがタンクの後ろ(縦置きでは下)にあり、燃料の圧がかかるのが問題のようで、最終的には TeeDee のような向きに対して強いエンジンに載せ替える必要がありそうです。他に、ボディが浮上方向に振動する問題も発生しました。吹き出し気流の慣性のため、ボディが下がると急に反発・急上昇するようです。静止時はかなり振動しますが、推進するとましになること、またエンジン搭載位置(高さ)を5mmずらすだけでかなり挙動が変わったため、チューニングが必要のようです。どうも少し重さを増やすだけでも改善しそうですが、いずれにしても調整の必要があります。推進力はそれなりにありますが、方向を制御するための気流が弱いとか、内部の電装系が油で濡れるため搭載位置を変えたいとかいろいろありますが、とにかく今は暑すぎます。室内でエンジンを掛けるわけには行かないためガレージで動かしていますが、少し動かすだけで汗だくに。室内で動かせないエンジン機の続きは、涼しくなってからにしようと思います。