3Dプリンタが安価になり、光硬化樹脂を用いたタイプではかなり高精度な造形も可能です。しかし素材が限られるために造形物の強度が制約され、アクリル素材に似た硬さになり、壊れにくさの点では一般のプラスティック造形品と同等とはいきません。特に、紫外線硬化樹脂は造形直後に比べて時間が経ったり光があたったりすると硬化が進み、出力直後よりも硬くなるかわりに脆くなることが多いようです。そのため細かなアクセサリを作っても落とすと欠けたてしまったりしますし、強度が必要な部分では厚みを十分にとる必要があったりします。なんとかならないか・・と思っていて、ふと思いつきました。FRP(繊維強化プラスティック)にすればいいのではないかと。
そこでいろいろ調べていると、なんとグラスファイバーの短繊維を小分けで販売しているところ(フェザーフィールド株式会社)が見つかりました。さっそく、ガラス繊維を3mmの長さに切断した「チョップトストランド」と、さらに細かくすりつぶした粉末状の「ミルドファイバー」を500gずつ購入。たった500gと思いましたが、届いてみると意外に量が多く、かなり遊べそうです。
3Dプリンタにかけるまえに、まずは簡単な実験をしてみます。小さじにガラスファイバー2種類をとって、それにスポイトで約1mlずつ紫外線硬化樹脂を垂らします。紫外線硬化樹脂にはSK本舗のSK水洗いレジンの透明と黒色を混ぜたものを使いました。この水洗いレジンは後処理や掃除が非常に簡単になる上、匂いもほとんどせず、造形失敗も非常に起こりにくいので非常におすすめ、というか光造形を使うならこれに限ると思います。爪楊枝でよく混ぜてから紫外線ランプで固めました。
固めたものを曲げたり折ったりする様子を動画に撮影しました。今回は形を統一していませんし、そもそも統一したところで測定器がないのでどうにもなりませんが、かなり剛性が上がっている様子がわかると思います。破断する際の強度だけでなく、その前の曲がりやすさ(剛性:ヤング率)がかなり変わるのが印象的です。またこれは想像ですが、3Dプリンタ出力物は次第に反ってくることが多いところ、それをかなり防げるのではないかと思います。
次に3Dプリンタで造形してみました。今回はミルドファイバーを、まずは少し、次は思い切った量を入れて造形してみました(それでも上の実験よりは混合比率は低いと思います)。造形結果を右に示しています。特に通常の造形と変わった点はありませんが、ミルドファイバーの混合率を高くしたときには一つ、造形物がプラットフォームから剥離したので、もしかしたら紫外線硬化樹脂の割合が減ることで接着力が下がる可能性はあると思います。ミルドファイバーを用いた場合、最終形状は普通の造形とそんなに違いはありませんが、側面は少しザラザラした印象になるようです(上下の面は通常の造形と同様にツルツルになります)。出来上がったものを曲げてみると、やはり混合しない場合に比べて剛性が高くなっているようで、幅10mm、長さ40mmの棒状の物体の場合、厚みが5mmもあれば、手の力では折ることが出来ないぐらいの強度になりました。
チョップトストランドではまだ実験していませんが、造形物の周囲に繊維が毛羽立ったような形状に造形されると思われます。薄い層ごとに固め、固めるごとにプラットフォームが上がって液を満たす動作をする関係から、全てのファイバーが水平方向に配向されると思われ、その方向の強度が高くなると思われます(よって薄板状のものは水平であれば強度が高くなると思いますが、縦に長いものは強度アップはあまり期待できない可能性があります)。次回実験してみたいと思います。
FRP というと、ガラスマットやガラスクロスなどの布状のものを型に貼り込み、2液性の樹脂(マトリックス)で固める方法が一般的です。しかし産業界ではプラスティックの射出造形で短繊維を用いた造形も広く用いられています。また、今回の実験と同様に光硬化型3Dプリンタで素材にガラスパウダーを混ぜ、強度の評価を行った先行研究も見つかりました。ガラスパウダーとミルドファイバーがどう違うか不明ですが、ガラスパウダーでもかなり強度が向上することが報告されています。ちなみに今回購入したミルドファイバーは遠目にはただの粉末ですが、拡大すると上の写真のように繊維形状を保っています。これらのガラス素材は紫外線硬化樹脂よりも重量あたりの値段が1/10程度と安いので、量を水増しすることもできて面白いと思います。
ミルドファイバーを紫外線硬化樹脂に混ぜると、そもそも粘度が高めの紫外線硬化樹脂の粘度がさらに上がりドロっとしてきます。それ自体にはあまり問題はないようですが、比重の違いによりガラス繊維が次第に沈殿します。造形動作である程度撹拌されますが、造形前にはよく撹拌したほうがいいようです。また、今回はさほど気になりませんでしたが、ガラス樹脂は硬いため、3Dプリンタのバット底面のFEPフィルムが白濁しやすい可能性はあると思います。
今度は一度、強度最優先でチョップトストランドを用いた造形も試してみようと思います。