2019年08月31日

プリロードの調整

以前こちらに書いたように、ボクスターのサスを車高調にしました。いい感じの車高になり、異音もせず良い感じなのですが、どうにも乗り心地が気になるときがあります。ダンパーの減衰力を変えたところで、バネ定数が結構高いのでどうしようもないところもあるのですが、それにしても時々大きいショックが入ります。もしかしてこれは底突き(バンプタッチ=サスが限界まで縮みきって動きがゴムによって止められた状態)が起こっているんじゃないかと思って見てみました。

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停止状態ではタイヤとボディの間の隙間が狭くて手が届かず、バンプラバーの上端がどこかわからなかったのですが、ジャッキアップして、そのときに伸びた分を考慮すると、どうもかなり圧縮側(縮む側)のストロークが短いようです。そこで右の写真にあるようにスプリングシートを右へ回して上に上げ(つまりプリロードをかけて)、その分ボトムケースも上に上げ(実際にはサス全体を左へ回してボトムケースにねじ込み)、車高を変えずに圧縮側のストロークを大きくしました。その分、伸び側のストロークは短くなりましたが、乗ってみた結果やはり底突きが解消されたようで、大きい段差でガツンというショックが入りにくくなりました。

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プリロード調整をするとバネ定数を上げるのと同じ効果があるとか言うような間違った解説を以前はよく見ましたが、流石に最近では少なくなってきたようです。ですが、どうもわかりやすい解説ばかりではないようなので少し説明をしてみることにしました。上の図は、車両が地面に置かれ、サスには車重がかかった状態(1G状態)です。今回の調整ではスプリングシートを上に上げ、それと同じ分だけボトムケースも上に上げているので、1G状態ではバネの長さや車高などは全く変わらず、ダンパーのアウターケース(紫色)が下に下がっただけです。そのためバンプラバーの上のスペースが広がり、圧縮側のストロークが伸びます。その分もちろん伸び側のストロークは縮みます。

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プリロード調整を行う最中は車両をジャッキアップし、上の図のようにタイヤが地面から離れます。このとき、ダンパーは伸び切った状態になり、長さは一定です。そこでスプリングシートを回して締め込んでいくと、バネが縮んでいきます。最初は軽いのですが締め込むにつれて力がかかって重くなりますので、なんとなく直感的にはバネが固くなったような気がするのでしょう。ですが先に書いたように、実際にはジャッキを外すとバネにかかる車重は同じなのでバネの長さも同じになり、仮に非線形なバネであったとしてもバネ定数は変わりようがありません。プリロードを上げるだけだと車高がそのぶん上がってしまいますが、今回のような全長調整式(フルタップ)の車高調であれば純粋に伸び側と圧縮側のストロークの配分を変えることができます。ただし圧縮側のストロークを伸ばすほど伸び側のストロークが短くなるので、上の図のようにジャッキアップ状態ではタイヤから地面までの距離が長くなっていきます。ここからジャッキを外したときにサスがまったく縮まないようだとプリロードのかけすぎで、伸び側ストロークが0ということになってしまいます。




圧縮側の動きは上のムービーのような感じになります。

このように、伸び側と圧縮側のストロークのバランスを取ることは、「サグ出し」と言われオフロードを中心にバイクの分野では重要な調整項目なのですが(普通、伸び側に対して圧縮側のストロークを2倍にする)、自動車ではあまりこの用語は使われないようです。このサス、こちらに書いたようにまず初期値としてゼロタッチ(プリロードがほぼ0で、遊びを殺しただけの状態)でしたが、ゼロタッチはもっとも圧縮側のストロークが短い状態です。車高を下げすぎたり、車高を一定に保ったまま圧縮側のストロークを伸ばしすぎるとサスが縮んだときにタイヤがボディ(タイヤハウス)に干渉する可能性もありますが、現在の状態(フロント20mm、リア15mmのプリロード。車高はノーマルから-20mm)では問題ないようです。
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2019年08月25日

ビデオヘッドセット Avegant GLYPH 使い勝手

ビデオヘッドセット Avegant GLYPH前に試した MOVERIO BT-30E と同様に、PCやスマートフォン・タブレットと接続して使用するディスプレイデバイスです。Oculus などの最近のVRゴーグルではスタンドアローン型がもてはやされていますが、ゲームやエンタメ中心で今ひとつ汎用性に欠け、仕事に使うにはちょっと無理があります。ではこの GLYPH ではどうでしょうか。

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PCやMacにはHDMIケーブルでダイレクトに接続ができます。MOVERIOと違い、途中に中継ボックスなどはありませんし、ヘッドセット内にバッテリーが内蔵されているので電源を接続する必要もありません。さらに充電中でも動作しますので、付属のMicroUSBケーブルをPCのUSB端子に繋げばPCから電力供給を受けることもできます。もっとも、内蔵バッテリーで4時間動くので実際には接続する必要はほとんど必要ありません。ともあれ、ケーブル1本で接続が完了し、音を聞くのに別途イヤホンを繋ぐ必要もないので、とてもセットアップが簡単。電源を入れると数秒で使用開始できます。PCからは単なるHDMIのテレビとして認識され、映像と音声信号が伝達されます。

この Avegant GLYPH で要注意なのは、受け付けるHDMI信号が720pまでであること。1080i/1080pの信号を入力すると、表示できない旨を表すエラー画面が表示されてしまいます。とはいえ、ほとんどの出力デバイスは相手先を自動認識して適合する信号を出力しますので、例えばこの MacBook Pro の場合でも接続するだけで問題なく画像表示されます。内部のDLP表示デバイスの解像度も720p (1280 x 720ピクセル)ですので不都合は全くありませんが、後述するように機器によっては720p出力に対応していないものがありますので念のため確認したほうがいいでしょう。

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アイピースから見える表示を iPad のカメラで無理に撮影してみた様子です。ディスプレイ素子がDLP/DMD(デジタルマイクロミラーデバイス)で、RGBの3色が時分割で表示されるため、どうしてもカメラのローリングシャッターと干渉して色づいた縞模様が見えてしまいます。実際の肉眼ではこのような縞模様はもちろん一切見えません。ただし眼球を動かすとDLPプロジェクタの投影画面を見ているのと同様にカラーブレーキング現象(明るい点が色づいて見える現象)は生じます。ですが表示は非常に鮮明で、それぞれのドットがかなり明確に視認できます。といっても通常の液晶ディスプレイよりは解像度や見えが劣りますので、表示解像度を低め(文字を大きめ)にするといい感じ。これならPCのディスプレイを消して仕事をすることもできます。

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表示部が上下に薄く、また周囲を覆わないので、手元を見ることもできます。感覚的には斜め45度から下は見える感じですので、PCのキーボードやタブレット画面を見るのは十分可能。また、目の周りが覆われないので画面が曇りにくいというメリットもありそうです。

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スマートフォンでも試してみました。Huawei P20 Pro では問題なく 720p の信号が出力され表示されます。USB-CからHDMIへの変換アダプターとしてはもっと小型のものもありますので、それを使うとさらに小型軽量化が可能です。

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P20 Pro にはデスクトップモードがあり、外部ディスプレイにはこのようにPC風の画面を出すこともできます。アプリによってはこのモードでうまく動かないものもありますが、メールの読み書きなどはこちらのほうがやりやすい。このデスクトップモード、接続するディスプレイの解像度によって画面の大きさが変わるようで、1080で接続されてしまうMOVERIO に比べ 720pとなる GLYPH ではアイコンや文字が大きくなり、使いやすい感じです。スマートフォン本体はタッチパッドになるので、bluetoothキーボードがあればちょっとした仕事はできそうです。もちろんデスクトップモードを解除して普通のスマホ画面でも使うことができます。

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GLYPHの特徴として、電源を切っているときでもヘッドホンとして使用できるというものがあります。3.5mmのイヤホンジャックを接続すれば電源を切ったままでも音が鳴ります。そのときにディスプレイ部分を覆うカバーも付属しており、また、レンズも引っ込めることができます。ちゃんとしたヘッドホンに比べ少し装着感は劣りますが、面白いアイディアだと思います。ただし音質は、HDMI経由で聞くよりも悪い感じ。低音が少し強くなりすぎるようです。逆にいうと、HDMI経由のときの音質はなかなかのもので、ヘッドホンとして十分満足行くものですので、ここはちょっと惜しいところ。とはいえ、特に音が小さかったりノイズが乗ったりするわけではないですし、もちろんTV会議等にも問題ありません。

iPad にももちろん HDMI 経由で接続することも出ます。iPad のいいところは、Amazon Prime Video などを視聴している途中にカバーを閉じたり電源スイッチを押して本体の画面を消しても、HDMIには映像信号が流れ続けるところ。ネット経由の映像視聴にはこれが一番便利のように思えました。ただし iPad は(現在のところ)マウス操作ができません。そのため、タッチ操作が必要なときには必ず画面を見る必要があります。次期 iOS ではマウス対応になるようなので、それが使えれば問題なくなるかもしれません。

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カメラも接続して試してみました。手元のカメラのうちHDMI出力があるのは、パナソニックのビデオカメラHDC-TM85, ソニーα7, DSC-TX100V, TX30 などがあります。このうちα7は出力信号が1080に限定されるようで、残念ながら表示ができませんでした。TM85やTX100V, TX30 では問題なく表示ができました。TX100Vを使い、カメラを手元で操作しながら解説するムービーを撮ろうと思って作ってみたシステムが上の写真です。自分がカメラを見ながら操作するような映像が撮れましたが、熱的問題なのかどうしても1カットの動画が5分ぐらいで止まってしまうため、もうすこし検討が必要なようです。なおこの場合カメラが重いので、実際には頭を後ろから支えるバンドを付けないとちょっと不安定になってしまいます。

GLYPH はメディア視聴用のデバイスですが、3D, VR にも一応対応しています。YouTubeにあるようなサイドバイサイドの映像であれば、左耳側のボタンを押すことで3D表示になります。また別のボタンを押すと、GLYPH内部のモーションセンサーの信号を出力することができます。この信号、なんとUSB経由でマウスの動きとして出力されますので、USBを繋いでおけば頭の動きでカーソルを上下左右に動かすこともできます。ちなみに右耳側のボタンではHDMI経由の音量と輝度(3段階)の調整ができます。

総合的に、画質と音質がともによく、接続も簡単で装着感も悪くない、よいデバイスでした。
posted by しんさく at 23:04| Comment(3) | TrackBack(0) | 電子モノ

ビデオヘッドセット Avegant Glyph

先日、エプソンのスマートグラスを購入した件についてこのブログに書きました。面白いデバイスなのですが、そもそもの目的(他人に覗かれないPCのディスプレイとしての用途)には画像のぼけが気になります。周囲のシーンが透けて見える光学シースルー式という難しい技術にチャレンジしているから仕方がない部分もあるのですが、実際に使うとなるとちょっと厳しいのは事実。そんななか、別のヘッドマウントディスプレイ(HMD)に良さそうなものがあるのを知り入手してしまいました。

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これは Avegant GLYPH というデバイスで、特徴はほとんど普通のヘッドホンの形をしている点。Oculus のVRゴーグルのように視野を完全に覆って没入感を得るものでもなく、かといって Google Glass や MOVERIO のように周囲環境と画像を同時に見るものでもなく、「ビデオヘッドセット」や「メディアゴーグル」と呼ばれ映像視聴用として企画されたもののようです。Avegant はもともとクラウドファンディングでこのデバイスを企画・開発して売り出したのが始まりのようで、今はより高度なヘッドマウントディスプレイを開発する企業として活動している模様。初出荷からは3年以上も経つデバイスなのですが、いろいろ調べていると多様なHMDの中でも画像のシャープネスがトップクラスらしく、重量バランスもよさそうなので買ってみました。当初は6万円ほどしたようですが、今は2万円ほどで買えるのも手を出す理由になりました。

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デバイスの重量は実測で432gです。前にMOVERIOを買ったときに書いたように重さは気になるところで、装着時の重さもさることながら出張などに持ち歩くことも考えると軽いほどいいのですが、4時間ほどディスプレイを駆動することができるバッテリーが内蔵されているために重めとなっています。しかし絶対的な重さは本格的なヘッドホン(右はオーディオテクニカの名機、アートモニター ATH-A900で、約350g)とそう変わらないということもできます。

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なんといってもこのHMDのいいところは重量バランスです。スマートフォン用と同様の大きさの大きな液晶パネルを用いたHMDに比べ、小さなDLP素子を使って作られているため、前側のディスプレイ部が小型軽量になっています。そのうえ、スピーカ部に回路やバッテリーなど重量物が集められているようで、重心はイヤーパッドの半径内にあります。上の写真は試しに乾電池を立ててバランスがとれるように置いてみたところ。

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装着性を高めるために鼻あては大きさ違いが4種類付属しています。この部品もよくできていて、シリコン状の柔軟な素材の裏から硬い板状のパーツで支えるような構造になっており、快適性が高いです。いずれにしても重量バランスが良いため鼻に重さがかからず負担は軽め。また頭頂部〜後頭部を押さえるバンドも付属しており、これを使うとさらに安定しますが、バランスが良いのと、イヤーパッドを押さえつける力が強いため、バンドや鼻あてがなくてもイヤーパッド部分の摩擦だけで見やすい位置に保持できるぐらいです。

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装着性といえば、光学系が少し傾けられている点も好印象。人間は手元を見て作業することが多いためか、真正面よりも少し下向きを見るほうが楽なようにできているようです。MOVERIOは画面が真正面に現れましたが、これを見るにはまぶたをしっかり見開く必要があったりして楽な視聴がやりづらいところがありました。その点、GLYPHでは画面がやや下寄りに出るので比較的楽になっています。大型のLCDパネルを用いたHMDに比べると光学系が小さく、目の位置合わせは重要になりますが、鼻あてがあるので一旦セットした後はずれることはあまりありません。

光学系が小さいメリットとしては、レンズのピント合わせ機能があること。これによりかなりの近視でも裸眼で映像を見ることができます。ピント合わせはレンズの周りのリングを回す仕組みで、左右の視力が違っていてもそれぞれ独立に調整できます。私は左目が-5.0D、右が-1.5Dぐらいと、両目の視力がかなり違うのですが問題なく裸眼でも使用できました。画面の見かけのサイズもMOVERIOの2割増しぐらいで、映像視聴には大きすぎず小さすぎずといったところ。ヘッドホンに似た見た目を狙ったキワモノのようでいて、実はかなりしっかりできたデバイスでした。PC等を繋いだときの使い勝手等は次のページで紹介します。
posted by しんさく at 22:29| Comment(0) | TrackBack(0) | 電子モノ