2020年09月13日

全天球パノラマカメラを作りました

最近すっかりはまっている、3Dプリンタでのあれこれ制作。とうとうカメラを作りました。しかもただのカメラではありません。360°、前後左右がすべて写るだけでなく、真上・真下も写る全天球パノラマカメラです。

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世の中、パノラマカメラと呼ばれるものにはいろいろあり、単に画面の上下を切るだけのニセパノラマカメラもあれば、超広角レンズを用いた横長画面のカメラもあります。しかし本格的なパノラマカメラというとやはり、投影方式が普通のカメラとは異なり(円筒座標系)、直線が必ずしも直線として写らないものになるでしょう。WideluxHorizonNoblex のようにレンズだけが首を振るものも面白いですが、なにより究極のアイテムはSeitz社のRoundshotシリーズのように、カメラ全体がぐるっと回って360°まったく死角のないカメラということになります。

RoundShot にもたくさんの種類があり、フィルム送りの方法にも何通りかありますが、今回、簡単に制作するために過去には(おそらく)用いられていない新方式としました。それは、回転するドラムの内部にフィルムのスプールを格納し、フィルムとドラムは撮影中は一体になったまま、相対的にはまったく動かないというものです。そんな方法でできるのかというと、カメラの首を振る方向に適切な速度でドラムを回せば、スリット像の動きに追従することができるので、1組のギアだけで回転を制御できるのです。詳しい仕組みは後の動画を見てみてください。レンズはニコンの対角魚眼ですが、これを斜めに(対角線方向が鉛直方向になるように)取り付けることで真上から真下までが写るようになっています。

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3Dプリンタでこれまでいろいろ作ってきたので設計には慣れてきましたが、今回ばかりはいろいろな心配がありました。特に心配だったのは漏光の問題。黒い素材を使いますが、それでいろいろなものを作ってみたところ、素材そのものが意外と透けます。特に底面・天面は厚みをかなり持たせないと透けるため、遮光性が要求される部分はそれぞれ5層で造形しました。また、回転するドラムがどうしても一部むき出しになるので、摺動しながらも遮光する部分が必要になります。3Dプリンタは精度が低いので、どうしても0.5mm前後の余裕を設ける必要があります。ですので合わせ目をピッタリにすることはできません。そこで複雑な凹凸を持つ、いわば「ラビリンスシール」構造にすることで、モルト(スポンジ)等を一切用いずに遮光性をもたせることにしました。つまり、合わせ目の隙間に多くの交差点を設け、光が壁に当たる回数を増やすわけです。上の断面図でわかりますが、特に上のキャップとドラムの間や、巻き上げノブの周辺などは念入りに遮光を施しています。

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さて、組み立てができたら試写です。今回はさすがにかなり心配でした。遮光が不十分で、屋外で撮ったらフィルムが真っ黒とかだったら、という心配がありました。また構造上、フィルム送りが非常に重く、きちんと最後まで撮りきれるかどうかも心配でした。結果・・・なんと、漏光の形跡は皆無。周辺部がまったくクリアなフィルムが得られました。まずは大成功です。写真には縦の縞があり、これは手動でカメラを回転させる場合には避けられない回転速度のムラによるもので織り込み済みです。レンズの焦点距離(16mm)に対してドラムの半径(35mm)が大きいため、360°を超えて2周弱まで撮影できます。シャッターを搭載していないので、撮影直前にキャップを外し、ぐるぐる回った後にはすぐにキャップを締めるという方法ですが、回転角度に余裕があるため問題にはなりません。想像以上にうまくいきました。

全天球パノラマ画像ですので、左右を360°で切り出すことで、スキャンした画像がそのままパソコンで全天球表示できます。例えば、ウェブサイトPortable Panorama Playerに写真を放り込めば全天球表示ができます。今回撮影した写真を以下にあげておきます。

ファーストライト(室内撮影)(F4)

近所の神社1(F22)

近所の神社2(F22)

近所の神社3(F22)


漏光が心配のため、最初は屋内でまず撮影しました。ボディのピント調整が不完全な上、レンズのフォーカスリングも繰り出し状態になってしまっていてボケていますが、天井のシーリングライトの丸い形もきっちり出ているなどちゃんと全天球画像が撮れています。シャッター速度が変えられないため(遅く回れば実質的なシャッター速度が下がりますが)、屋外撮影では絞りを絞り込んでいます。F22で適正かどうか不安でしたが計算は悪くなかったようで、いい具合に撮影できました。足元の三脚の下に置いたアルミケースまでうまく写っています。



例によって動画も制作しました。原理の図示や、組み立ての様子も写っているのでぜひ見てみてください。今回、できるだけ「3Dプリンタ率」を上げることも目標にしたので、他に用意した部品はレンズマウントに使用した接写リング(Nikon PK-13)、ベアリング3個とネジぐらいです。動画では厚手の敷居すべりをドラムに貼り付けていますが少し厚すぎたので、撮影時にはクラフトテープに変えています。なんとスリットまで3Dプリンタ製ですが、これは薄手の金属板などでもう少し細くしてもいいかもしれません。

今回のカメラは3Dプリンタでの初トライということで、まずはシンプルで確実に撮影できることを目指しました。ですのでいくつか、以下のような問題が残っています。どうせならもうちょっと詰めて、ちゃんと撮影に耐えるカメラを作ってみようかと思っているところです。


  • フィルム巻き上げが大変に重い。ドラムに巻きつけたフィルムが巻き上げ時に締まるためと思われます。ですのでノブを送り出し側にも取り付け、緩めながら巻き上げられるようにしていますが、それでも非常に硬いです。スプール付近にはローラーを設けるなどの工夫が必要そうです。
  • フィルム装填がかなり難しい。ドラムは底のギアと固定されているため抜き取れず、隙間からフィルムを押し込む感じです。レールとの間に隙間があるので(フィルムはローラーに巻き付くので浮きにくく、レールはそもそも不要)バルナックライカほど引っかかる感じはありませんが、ちょっとやりにくいです。
  • フィルム送りは赤窓式で、645判の数字を読み取りますが、これが見づらいです。屈曲部に鏡を貼り付けられるようになっていて、それを貼り付ければ見やすくなるとは思います。
  • カメラの回転軸にはベアリングを設けていますが、3Dプリンタの精度を見込んで余裕がありガタツキがあります。像の縦揺れを防ぐために、軸の固定を強化する必要があります。回転軸の長さをとるためにやむなく回転軸を横にずらしていますが、これも光軸上に設置したいところです。
  • 回転ムラ。手動ではなかなかムラをなくすことは難しいので、自動化する必要があります。モーターを使う手もあるのですが、せっかく "unplugged" つまり電動要素を入れていないので、機械式にしたいところ。オルゴールのメカを流用することを計画しています。


そんなことで、もちろん課題がありますが、とにかく3Dプリンタでカメラが作れたのはよい経験になりました。レンズシャッターとフィルムバックの間をつなぐような、単純な暗箱ならもっと楽に作れそうに思えますが、まずはこのパノラマカメラの実用性を高めてみたいと思います。
posted by しんさく at 23:45| Comment(0) | TrackBack(0) | カメラ

2020年08月30日

単3充電池の自動充電器を自作しました

突然ですが、エネループなどの単3型充電池の充電器を作りました。しかし、ただの充電器ではありません。電池を流し込んでおけば順に自動セットして充電してくれるというものです。こういうものにはすでにいくつか市販品があり、最近は廉価なモデルも出たのですが、それでも9,000円ほどと結構なお値段。なくても済むということもあって手を出さずにいましたが、ふと、作れるんじゃない?と思って作ってみました。ネットで検索すると海外も含めて自作例が見当たらなかったことも後押しになりました。

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電池を取り込んでセットし、充電後に排出する部分は3Dプリンタで作ります。中央の円筒に電池がはまるようになっていて、その円筒をサーボモーターで回転させることでこれらの動作を行います。充電器は手持ちの中から、もう使っていない古いものを使い、その充電ランプを micro:bit というマイコンで読み取り、サーボモーターを制御します。

作り始めたのは平日の火曜日の晩。晩ごはんの後に開始し、円筒と枠の部分を設計・造形して試してみたら、案の定といいますか、電池が詰まりやすくて使い物になりません。早速ものづくりの洗礼を受けたな、と思いながら、翌日、円筒にコブをつけて余計な電池をかき分けるよう設計修正し、毎回確実に電池がセットできるようになりました。木曜日(仕事が休みでした)の午前には電池の接点を作り、充電ができるように。その後、外装(筐体)を設計・造形しつつ足りない部品を注文し、それが届いた金曜日の晩にはほぼ完成。土曜日に細部を整え、動画を作って完了という、1週間にも満たないプロジェクトでした。

せっかくなので、これまでは手抜きの極みだった(というよりも、このブログに差し込むためだけだった)動画について、BGMやテロップも入れてきちんと作ってみました。ぜひ音声ONで御覧ください。



いろいろと書かずとも、この動画を見ていただければすべてわかると思います。今回、感心したのは micro:bit の便利さ。特に開発環境のブロック式のプログラミングは、「こんな面倒くさそうなもの使うか」と思っていたのですが、それがそうでもなく、ミスが未然に防がれる作りになっていて感心しました。最初からサーボモーターを制御するブロックもあり、とても標準的な作りと言うか、変わったテクニックはまったく必要なく、各電池の充電時間を記録・表示する機能なども簡単に組み込めました。

設計データやプログラムは全てダウンロード可能です(YouTube 動画の説明欄にリンクがあります)。材料は、廃品の充電器を利用するなら、最低限購入する必要があるのは micro:bit(約2000円)と小型サーボ(約250円)に、3Dプリンタのフィラメント(約400g, 約1000円)ぐらい。筐体部分は精度を必要としないので、木工などで作るのも楽しいと思います。ぜひ作ってみてください。
タグ:3Dプリンタ
posted by しんさく at 22:02| Comment(0) | TrackBack(0) | 電子モノ

2020年08月21日

ボクスターのドアノブのぐらつき タダで直せます

毎日の猛暑で、テレビでは危険なので外出を控えろと繰り返されています。そんな中、通勤先に到着して車から出ようとすると、内側のドアノブ(ドアを開くときに引っ張る銀色の部分)の感触に違和感があり、手を離しても元の位置に完全には戻らず、グラグラになりました。中で何かが折れたのだろうと、ネットで検索すると案の定。このころのボクスターやケイマン、911(987, 997)では定番の故障らしく、多数の情報が見つかります。ドアノブを引き込むバネを支えるプラスティックパーツが折れてしまうようです。さすが、ポルシェは徹底的に軽量化を図っているということですね笑(笑 の意味は後述)。

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そこでドア内張りを剥がしてみると案の定、フックの部分が壊れています。ただしネットでよく見るのはバネの押さえが折れるケース。それに対し、うちの場合はなんと回転軸そのものが折れていました(赤の両矢印)。さらに根元にもクラックがあります(青の矢印)。ともあれ、この折れる方の右のパーツは稚拙な設計で、頑丈な左のパーツと同じ人が設計したとはとても思えない、CADの初心者が設計したような形状をしています。

さて、このパーツを取り出すため、ドア内張りを剥がすだけでも一苦労です。ですので、普通は部品を手配してから作業すべきところですが、なぜその日のうちにすぐバラしたのか。それはなんと、このボクスター、「こういうこともあろうかと」予備の部品を最初から搭載しており、交換部品がなくても修理できるのです。さすがポルシェ!・・青矢印の指した部品をよく見てください。この部品、左右対称になっています。なんと左右のドア2個分を1つの金型で済ませるために、左右対称にすることで部品を共通化してあるのです。(ただし、上の写真に写っている2つのパーツとバネが組み立てられた状態で左右それぞれに1つの部品番号が与えられていて、バラバラには買えないので、在庫削減効果はありません)。つまり、反対側に出っ張った軸やバネ受けなどの突起は全くの無駄・・・いや、予備部品としてこれから使うので文句は言えませんね。

これをみて「ああ、いつものポルシェのやり口だな」と思った人はポルシェに詳しい人だと思います。ポルシェは水冷化の時期(つまり986 型のボクスターと996型の911の時代)から、やたらと部品共通化によるコストダウンを図っているのです。例えば大物ではエンジンのシリンダーヘッド周りが左右バンクで共通になっています。ヘッドブロックそのものは部品番号としては別になっていますが、ほぼ同形状で、これは金型が共通で機械加工が異なるためのようです。なおヘッドカバーやカムホルダー・ヘッドガスケットなどは左右が部品番号からして共通です。このために左右バンクでカムチェーンが前後に分かれており、それを駆動するために悪名高きインターミディエイトシャフトが必要になっているのですが・・またサスペンション周りでも、当初はハブキャリアがフロントとリアで共通部品(前後逆に配置、つまり対角線方向に共通)だったり、ロアアームに至っては前後左右4つが共通でした(これも時期によって設計変更され別部品になっているものもあります)。そもそも、値段が倍ほども違うボクスターと911で、前席から前はかなりの割合で部品が共通であることはよく知られており、大衆車に比べ少量生産であるハンディをできるだけ克服しようとした形跡が多く見られます。そのため、必ずしも軽量化が最優先にされているわけではないのです。まあ、これらのコストダウンの成果により、アルミ製のサスペンションアームなど、高価な素材が使用できている側面はあります。

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ともあれ、長くなりましたが、修理は簡単です。左右のドアノブのヒンジを取り出し、この折れたパーツを左右で入れ替えるだけです。もっとも、この部品は3,000円程度だそうで、左右の内張りを両方とも剥がすのも面倒なので、部品を買ってしまうほうが早いかもしれません。ただし、現在の部品は設計変更されており、ボーデンケーブル(ロック機構とドアノブを結ぶワイヤー)も同時交換が必要で、このワイヤーの交換はかなり面倒です。またこの折れた部品だけを換えるにはヒンジの分解組み立てが必要で、バネが硬いので、細くて丈夫な丸パイプを使うなど工夫して作業する必要があります。

こんな方法で部品を買う必要も、到着を待つ必要もなく、壊れたその日の晩に修理完了となりました。しかし製造から10年以上暮れており、距離も13万キロ近く。あちこちの樹脂部品がかなり劣化しています。そのうち結局折れてしまって交換することになる気もします。
posted by しんさく at 00:21| Comment(0) | TrackBack(0) |